音楽フェスと観光とインターネット

永井純一神戸山手大学現代社会学部講師

2015.08.17

インターネット、ソーシャルメディアから地域へ踏み出す

  これらを結びつけるうえで重要なのがインターネットの存在だ。体験型・参加型の観光としての側面に注意が向きがちだが、実はインターネットとフェスは深い関係にある。

 たとえばフェスに行くには事前の情報収集が必須だが、フェスに関する一次情報のほとんどはマスメディアではなくウェブで発表される。またチケット、駐車券、キャンプサイト券、オフィシャルツアーの手配や参加者同士の交流にもインターネットが積極的に利用される。もちろんアーティスト情報の確認やYouTube等で音源チェックなど、フェスとインターネットは共存共栄していると言っても過言ではないだろう(注6)。

 とりわけソーシャルメディアの存在は、近年のフェスを語るうえで欠くことができない。2013年8月から1年間のソーシャルメディアにおけるフェスについての投稿を分析したEventbriteとMashworkの報告によると、近年のアメリカにおけるフェス人気はソーシャルメディアをフル活用する「ミレニアル世代」が牽引しており、ソーシャルメディアの活用がフェス体験を豊かにしているという。興味深いことに、全ての投稿を100とした場合にそれぞれのタイミングでなされる投稿の割合はフェスの前(54%)、開催中(17%)、フェスの後(29%)と推移している(注7)。つまり、ソーシャルメディアと合わさることでフェスはその開催期間の数日間だけでなく、より長期間にわたって体験されるようになったのである。

 こうしたデジタルメディアによるフェス体験の変質をYvette Moreyらは「フェスティバル2.0」と表現する(注8)。

 音楽をきっかけに旅をすることは、個人的には「あり」だと思っている。フェスでもなければ行かないような地域に行くことができるし、2011年の震災後に多くの音楽ファンが「音楽で貢献」を合い言葉に東北地方でのフェスに参加したように、フェスを通じてその地域に愛着を持つことも少なくないからだ。

 地方にフェスが増加した背景には、送り手が多様化し、プロモーターや企画・制作会社などコンサートのプロだけでなく、ミュージシャンや地域の青年たちにその担い手が拡散していることが挙げられる。それらのフェスはインフラや施設等の開発を伴わず、その地にある風景や資源を利用する場合がほとんどであり、そのフェスならではの個性を生み出している。また多くの場合フェスはひとりではなく、友人や家族と参加するため、同じフェスに行っても毎回が違った体験になる。フェスの魅力とは、そうした予定調和ではないところにある。そしてソーシャルメディアは参加者にとってのフェス体験をより豊かなものにし、そこでの交流によって拡散する情報は、地域のブランディングに少なからず貢献するだろう。

(注6)永井純一 2014「ツーリズムとしての音楽フェス:『みる』から『いる』へ」遠藤英樹・寺岡伸悟・堀野正人『観光メディア論』ナカニシヤ出版
(注7)Eventbrite+MASHWORK 2014 EventBrite Music Festival Study
(注8)Morey, Yvette, Andrew Bengry-Howell, Christine Griffin, Isabelle Szmigin and Sarah Riley. 2014. ‘Festivals 2.0: consuming, producing and participating in the extended festival experience.’ In Andy Bennett, Jodie Taylor and Ian Woodward, eds. 2014. The Festivalization of Culture. Farnham: Ashgate, 251-268.

著者プロフィール

永井純一

永井純一神戸山手大学現代社会学部講師

研究分野は社会学、文化研究、ポピュラー音楽研究。ロックフェスやデジタルメディアなどを題材に、聞き手、受け手に注目した論考を行う。論文に「〈参加〉する聴衆―フジロックフェスティバルにおけるケーススタディ 」(『ポピュラ-音楽研究 10』)、「ツーリズムとしての音楽フェスー「みる」から「いる」へ」(『観光メディア論』ナカニシヤ出版)ほか。

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