日本遺産ブランド-文化財を活かした国際文化観光のベストモデルを目指して

稲葉信子筑波大学芸術系教授、日本遺産選定委員会委員長

2015.09.01

なぜ日本遺産なのか-文化遺産保護の視点から

八幡堀 写真提供:滋賀県
八幡堀 写真提供:滋賀県

 すでに国宝や世界遺産があるのに、なぜ日本遺産なのか。

 日本の文化財保護は、建造物や遺跡、庭園などを個別に指定することから出発し、これに無形文化財、民俗文化財、歴史的町並み、産業遺産や農山漁村の景観など、時代が求める新しいタイプの文化財を取り入れながら、これまで進んできた。今はそうした新たな文化財のタイプの発掘作業がほぼ終了し、次のステージを目指して飛び立とうとしているところにある。

 現在進んでいるのは、これまで増やしてきた点を面に広げて、地元の視点から地域の文化と自然を総合的にとらえるための新たな仕組みの創出である。そしてその背景にあるのは、そうすることで、個別の点でしかなかった文化財が地域固有のものがたりの一部になり、それを地域のアイデンティティー形成や地域振興に役立ててもらえるのではないかという期待である。

日本遺産ロゴマーク
日本遺産ロゴマーク

 こうした動きは日本だけのものではなく、欧米の先進国でも同様で、ここ10年ほどのうちに、地域における文化や自然の資源を総合的に活用するための新たな支援の仕組みを用意する行政の動きが盛んになっている。持続可能な地域づくりに向けていままでになく、文化と自然の資源の役割が注目されている。

 世界遺産にもそうした各国の動きが反映されて、ストーリーを重視する申請が増えたこともあった。しかし世界遺産条約の本来の目的は、国際的な視野に立って次世代に伝えるべきモノの確実な保存である。文化財の活用、特に観光振興を推進する必要性を各国の関係者も自覚しつつ、しかし確実に保存する必要もあるため、地域の思いをどうやって汲み取っていくか、どのような方法が可能か、模索を続けていた。

 日本遺産は、そうした思いを国際的にも先取りした成果である。
 本物の価値に裏付けられ、地域へのまなざしと海外への発信力の二つを合体させる試み。日本遺産という分かりやすいブランド名とロゴマークが、その意思に明快な顔を与えている。そこが海外にも例がない日本遺産ブランドの特徴である。

 

 

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