和船を活かした河川観光舟運の実態と将来性

出口正登写真家
出口晶子甲南大学文学部歴史文化学科教授

2016.11.02

やりすぎでも、ありのままでもないバランス

和船を活かした河川観光舟運の実態と将来性
大聖寺川 櫓こぎ木造船で、何でもない川をのんびりと周遊する(2010年9月撮影)

 日本の河川観光舟運は、鵜飼い見物、川下り、船めぐり、渡しのおよそ4種類に分けられる。これら全てが1カ所に出そろうのが京都の嵐山(保津峡)であり、国内外の観光客で通年にぎわう。しかも嵐山では川下りや船めぐりの乗客目当てに物売りをする行商船(うろ船)が登場し、淀川のくらわんか船を彷彿とさせる他にない持ち味が魅力である。
 一方、風景をいじりすぎず、無理のない風情が魅力となっている場所もある。その一つが、NPOによる石川県大聖寺川の遊覧だ。都会とは異なりずいぶんノンビリとした運営である。まだローカルな観光舟運だが、サクラの季節は時間待ちが出るぐらい人気がある。船頭さんの人柄もあるのだろう、櫓こぎの技や田舎の河畔の景色も他とは異なる穏やかな雰囲気を持っている。地元を走っていた古いチンチン電車の待合所や近くの北前船資料館、片野の鴨資料館などノンビリ・ユックリを絵に描いた景色なのだ。その日は偶然秋祭りに出会い、獅子舞が練り歩く行列を追った。こうした観光化しすぎない風情や頃合いは、内と外のバランスが保たれてこそである。やりすぎてもありのままでもうまくはいかない。いい所だと情報発信されれば、観光客がにわかに増え、次第に風景が厚化粧になってしまうこともある。バランスを安定させていくことは意外に難しい。

 熱心な取り組みが各地で展開される一方、河川観光舟運には課題もある。全てが活性化の方向に向かっているとは言い難いからだ。特に渡しは、本来観光目的ではないため、橋が架かれば存続が難しい。木造船による岡山県高梁川の水江の渡しは2016年3月に惜しまれながら廃止となった。遊覧事業でも2016年に入って中止を決めたところがある。地方では、常時安定して運航していくための人材確保に課題を抱えるところが少なくない。訪ねてみたが船頭が不在の場合もあった。船頭がいて船もあるのだが、乗客がいないため、しばらく待ったが乗れないということもあった。大型船はなおのこと客が少なければ赤字が増えるのだろう。
 しかし観光は、たとえ時期が限られても、そこに行けば必ずあるという状態が望ましい。内側の自発自営のもと、他地域の多様な取り組みを参考にしながら、小規模でも安定した運営をしていくことが重要だろう。

和船を活かした河川観光舟運の実態と将来性
倉敷市水江の渡し 向こうに見える橋が架かったために廃止が決定し、最後の航行を惜しむ人々が多数集まった(2016年3月撮影)

 日本の国土の根幹には川がある。その流域連携や川への愛着を高め、行政単位を超えて新たな河川文化を形成していくことは、国土の保全を図る上でも重要である。この認識にたって我々は、自然や地質、歴史や文化、産業などに関わる山河海の遺産群をつなぎ、川を軸とした広域観光を促進する「日本の流域遺産」構想の可能性を探ってきた。河川観光舟運は、川を軸とした旅路の創出には欠かせない活動である。川の国・日本の文化発信として一層力強く展開されていくことを大いに期待している。

注)詳しくは以下を参照ください。
  出口晶子・出口正登 2016年「和船を活かした河川観光舟運」『甲南大学紀要文学編』166:193-212 

著者プロフィール

出口正登

出口正登写真家

神奈川大学国際常民文化研究機構共同研究者
著書に『邑知潟のチヂブネ』船の科学館(写真)、『琵琶湖周航-映像地理学の旅』昭和堂(編著)、ホームページに『フィールドカメラマンノート』など

出口晶子

出口晶子甲南大学文学部歴史文化学科教授

関西学院大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得 博士(文学)
甲南大学文学部長
著書に『丸木舟』法政大学出版局、『港の景観-民俗地理学の旅』昭和堂(共著)など

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