和船を活かした河川観光舟運の実態と将来性

出口正登写真家
出口晶子甲南大学文学部歴史文化学科教授

2016.11.02

和船を活かした河川観光舟運の実態と将来性
大阪道頓堀 狭い運河のような川をいろいろな種類の遊覧船が行き交う(2010年9月撮影)

きれいになっていく大阪の川

 「川にゴミ浮いてるで」と指さす孫の傍らで、「水、きれいになったなあ」と感嘆の声を上げるおばあさん。「これで?」「そや、昔はな、もっと黒うて臭かった。ああ気持ちええ」。
 これは、2007年に大阪市西区が実施した家族による体験学習船に参加したときの一こまだ。前年に特定外来種に指定されたボタンウキクサ(英名ウオーターレタス)が当時はまだ大川周辺のあちこちに浮いており、それらを眺めながらの船旅だった。川の過去を知る者からすれば、川はきれいになったと実感される。そうこうするうち大阪の遊覧船の数や種類は瞬く間に増えた。川を行けばビルの大硝子に写し絵となる大阪城を発見することができる。堀割の上空をまたぐ自動車道路が夏の太陽を遮断する巨大日よけとなっているのも実感できる。
 「ハイ、頭を下げて!」満潮時の河口付近では、船頭の号令で一斉に体を折り、橋の下をくぐる。その瞬間に乗客は一心同体となる。「呉越同舟とはこのことか」と格言が腑に落ちる瞬間だ。こんなふうに川を船で行く観光は、都市が放つ時間と空間の発見に満ち満ちている。
 都市のなかで川ほど自然を直に感じられる空間はないと言える。そのためには水や風景が一層美しくなることも重要だろう。放水路と化した川に見慣れてしまった我々が、川があるから「船に乗ろう」「船に乗ってもらおう」と行動する「楽しい水路」の時代を今、真剣に創造し始めているのである。

和船を活かした河川観光舟運の実態と将来性
浦安市郷土博物館 在来木造船の工房を併設し、船大工の技術継承を図っている(2010年5月撮影)

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