和船を活かした河川観光舟運の実態と将来性

出口正登写真家
出口晶子甲南大学文学部歴史文化学科教授

2016.11.02

川旅・船旅のすすめ

和船を活かした河川観光舟運の実態と将来性
富山県営渡船 この時、橋は未完成だったが完成後も便数を減らしながら航行している(2010年10月撮影)

 全国の河川を回り、船旅を楽しむ人はまだごく少数だが、やってみることをお勧めしたい。そこにはいろいろな発見がある。全国の川や湖、堀などで実施される観光舟運は現在200カ所ほどにのぼる。同じ場所で複数事業者が通年営業するところや単独による季節限定事業などその運営には幅があるが、全ての都道府県で実施され、現在進行形で増えている。
 特に1997年の河川法改正後は、NPOなどの事業参画が大いに促進された。川の環境美化運動と併せた取り組みや歴史的環境の再現のほか、阪神・淡路大震災の教訓から学んだ点も大きい。
 道路や鉄道、海港が寸断された非常時に、川が十分交通機能を発揮するためには船で行き交う川の日常がなければ実現は難しい。川を観光とつなげることは流域一帯の地域活性化にも貢献できる。おかげで古くからの名勝地に加え、この10年余りの間に、実にさまざまな場所で観光舟運の取り組みが進んだ。

和船を活かした河川観光舟運の実態と将来性
庄川大牧温泉 ダム湖に道が沈み船でないと行けない。着くまでの景色は春夏秋冬それぞれに綺麗だ(2011年4月撮影)

和船を活かした河川観光舟運の実態と将来性
氷見 桜の開花時のみ地元の船大工が造った櫓こぎ木造船で運行している(2011年4月撮影)

 東京や大阪の大都市以外で、河川観光舟運が盛んな県といえば、富山県が挙げられる。放生津潟の県営渡船、川と海を接続する内川遊覧、神通川分流の松川遊覧、氷見の湊川遊覧、黒部ダムで分断された登山路を結ぶための渡しや黒部ダムの遊覧船ガルベ、庄川ダムの船でしか行けない温泉宿の渡しなど9カ所ある。2009年8月までは小矢部川河口に義経・弁慶の伝説で知られる如意の渡しも有料で稼働していた。伏木万葉大橋が開通し、この渡しは廃止されたが、県営渡船は橋が架かっても市民の足として稼働しつづけ、エレベーター付きの大橋と渡しの共存が見られる希少な場所となっている。「電力の県」富山とは、「川の県」である。小さな船旅をつづれば、立山と日本海をつなぐ川の存在感を改めて発見することができるのだ。

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