域学連携を持続可能にするポイントとは

山本早苗常葉大学社会環境学部准教授

2016.07.04静岡県

「地域の子ども」、「第二の故郷」と呼び合う関係

 これまで主に石部棚田の援農活動に取り組んできましたが、2011年に財政的理由と関係者の要請を受けて、運営体制と活動内容を抜本的に見直す必要に迫られました。より深く地域を知るために、どんな場づくりや関係づくりが必要なのかと試行錯誤した末に、ゼミ活動として、郷土料理体験、手しごと体験、聞き書きに取り組みはじめました。今、振り返ってみると、これが従来の活動のあり方を大きく変えるターニングポイントだったことに気付かされます。

 聞き書きでは、世界の海を股にかけて生きてきた漁師、海女や潜水士、炭焼き職人の語りなど、大きく変わりゆく地域の姿とそれでも変わらぬ地域への思いを丁寧に聞き取り、郷土料理体験を通じて地域の女性たちが培ってきた食文化を学び、地域の足元にある宝ものを少しずつ掘り起こしていきました。郷土料理体験で、学生たちが大喜びで食べたことがきっかけで、地元で忘れ去られていた「ごじる」(大豆をすり潰した味噌汁)は、今や石部の名物として地域の行事食に再登場するようになりました。

聞き書きで、一人ひとりの人生に聴き入る学生たち
聞き書きで、一人ひとりの人生に聴き入る学生たち

 これらの活動に関わった学生たちは、石部は「第二の故郷」だと言い、地元の方から「石部の子ども」と呼ばれるほどの関係を築いています。学生たちは、棚田保全ボランティア活動で、伝統的農業技術を習得しただけでなく、海や山とともに暮らしてきた人々の生活の知恵や技を学び、人とのつきあい方やいかに生きるのかという人生との向き合い方を学び、独自のモノサシを身に付けていきました。

学生が地域と持続的につながるためのポイント

「マルシェが生きがい」と語る地域の女将さんたち
「マルシェが生きがい」と語る地域の女将さんたち

 プロジェクトで、学生が地域とつながる時に気をつけている点がいくつかあります。何よりも重視しているのは、ひとまず「場」だけ用意しておき、組織体制やプログラムを設計しすぎないということです。場に人が集えば、自然と新しいものや創意工夫が生まれていきます。2011年に運営体制を見直す際、中間支援組織や活動方針について関係者全員の合意を得ることにとらわれた結果、ほんの小さな意見の食い違いが関係者間に大きな溝を生み出してしまい活動が頓挫したことがありました。この手痛い失敗経験から学んで、このようにしています。

 これまでのやり方に縛られず、新しいアイデアが出てきた時には、「ひとまず、やってみる」ということも大事です。新しいものを生み出していく試行錯誤の過程で築いた人間関係や信頼関係は、その後、活動を継続していく上で欠かせない財産となります。

 また、地域の人々と深い関係を築くことは重要ですが、自分たちの活動を相対化しつつ、地域の隠れたニーズを掘り起こすために、できるだけ異なる立場や組織の人たちとも交流を持つようにすることが、活動を継続する上で鍵になります。これと合わせて、ひとつの地域にどっぷり浸かりながらも、たえず他地域との比較の目を持ち、自分たちが関わっている地域の個性や魅力、他地域と共通する課題と自分たちの地域に固有の課題を浮き彫りにしていく努力も必要です。

 最後に、効率性にこだわりすぎないことです。活動を長く継続していると、マニュアルができて作業効率や手順は良くなり、スムーズに運営をすることが可能です。しかし一方で、創意工夫が少なくなって活動やイベントのマンネリ化が起こり、地域の方と茶飲み話をする場が減り、活動の遊びの部分や余白が消えがちです。ちょっと回り道をして、表層的な課題解決を目指さないということが、結果的には、地域がより元気になる近道のように思います。

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