建築からヴォーリズ精神を伝える NPO法人ヴォーリズ建築保存再生運動一粒の会
建築でつながる縁
外からの光が柔らかく差し込む階段
会ではヴォーリズ建築の案内にとどまらず、夏まつりなど、旧八幡郵便局のある商店街の活動にも参加している。
橋:
「近江八幡市のここにある郵便局というのを大事にしています。会の活動が始まったころに比べるとこの通りに店が増えて、観光客の往来が増えました」
来客の増加には旧八幡郵便局の貢献も大きいだろう。現在も商店街の通りでは町家から宿泊施設への改修が行われており、さらなる活性化が進みそうだ。
旧八幡郵便局をイベント会場として貸したり、自主的なイベントを開いたりすることもある。ヴォーリズが設計した八幡小学校の図面展を行ったときには、「私ここに通っていた、ヴォーリズさんの設計とは知らなかったという声が多くありました。特別な建物ではなく、近江八幡では身近なところにあるのです」と橋さんは振り返る。
会の活動に始まり、2008年にはヴォーリズの展覧会が滋賀県立近代美術館や東京都内で開かれたことなどもあり、この10年ほどで近江八幡の人々にもヴォーリズのことが広く知られるようになってきたという。
また会では北海道北見市や長野県軽井沢市など、全国各地のヴォーリズ建築の保存活用の活動を行う団体との交流も行っている。
橋:
「いろいろな活動をしていると、ひょんなところで縁がつながって新しい何かが生まれることもあります。大げさな言い方をすれば、人生が豊かになるかなと。続けてきてよかったなと思います」
2018年に活動20周年を迎えるにあたり、会では記念誌を制作したいと考えている。
橋:
「今までの活動を振り返ったり、今まで携わっていた方ともう一回縁を持ったりしたいと思います。15年ほど前に滋賀県内のヴォーリズ建築を調査しましたが、現状をもう一度調べて、持ち主の方とのつながりを強くしていきたいですね」
さらに、「今すぐできるかわからない」としながらも、「古い建物を残していきたいという方の相談に乗れる体制をつくっていきたい」と二人は話す。20年の歴史を持つ会は、建築保存活用活動をする全国の団体のパイオニアだ。
橋:
「同じような活動をしておられる方の情報発信基地になればと思います。いろいろな段階の活動がありますが、それぞれうまくいくようにつなげたり、サポートできたりするような会になれたらと思います」
二人は必ず「ヴォーリズさん」と呼ぶ。ヴォーリズ建築の魅力を語る二人はとても楽しそうだった。言葉の端々からヴォーリズを好きな気持ちが伝わる会の人々と話すことは、現地を訪れるからこその楽しみだ。また、感覚的な言葉と具体的な言葉の両方で表現し、わかりやすい。これまで会の皆さんがヴォーリズ建築を研究し続けてきたからこそ出る言葉なのだろう。説明板やパネルだけでなく、人から話してもらうことで、よりわかりやすいだけでなく、楽しい思い出もできる。
こうした活動はボランティアの熱意に支えられているところが大きい。自治体のサポートも必要だが、財政的にも限界があるだろう。
ここで期待されるのが企業や民間起業者の役割だ。近江八幡市でも、一般の人も見学しやすいヴォーリズ建築として名前が挙がるのは、洋菓子店のカフェとして活用されているものだ。建築を飲食店、宿泊施設等で活用することは、建築を多くの人に公開することに加え、保存に必要な資金を生むことにもつながる。企業や民間起業者が建築の価値を損なわない形で活用し、多くの人に魅力を伝えるためには、所有者や市民ボランティアとの連携、そしてそのつなぎ役であり文化財の保存を考える役割としての行政など、地域が一体となった取り組みが必要となるだろう。
(インタビュー・文/青木 遥)
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