サイクルツーリズムの多様性と地域社会

近藤隆二郎滋賀県立大学環境科学部環境政策・計画学科教授

2014.08.16滋賀県

全国で盛り上がる自転車観光

 サイクルツーリズム(自転車観光)が脚光を浴びつつある。

 しまなみ海道はもとより、北海道や静岡、青森など各地でサイクルツーリズムに取り組む地域が出てきている。ビワイチ(びわ湖一周サイクリング)を抱える滋賀でも、さまざまな動きが出てきつつある。

 インバウンド観光としても、自転車観光が盛んである台湾などをターゲットとしたプロモーションも始まっている。サイクルレースやツーリングなど単体のメニューは目新しいものではないが、地域として総合的に取り組むことで、初心者やファミリー層も含めたすそ野の広いサイクリストの集客に結びつくことが注目されている。

 びわ湖で輪の国びわ湖推進協議会が提供している「ビワイチ認定証」の発行数も右肩上がりで増加しており、リピーターや家族、集団でビワイチをする層も増えてきている。

 また、従来のサイクリング層とは別の層を対象とした、自転車+α(女子、スイーツ、グルメ、癒し、風景、ヨガなど)をプロデュースする動きも地元から出てきている。

気になる「観光」と「生活」の共存

 この盛り上がりはとてもうれしいのだが、行政主導の自転車政策にたずさわっている立場から言うと、「観光」という視点と「生活」という視点との距離が気になっている。

 つまり、カヌーやマラソン、登山といったスポーツツーリズムとサイクルツーリズムとがやや異なる点は、日常的に多くの人が使うアイテムでもあるという点である。この点が要注意であるとともに逆に可能性も持ち得ている。

 観光客というゲストの視点から考える場合、走行環境や観光資源、マップ、イベント、ガイドといったコンテンツの必要性が想定される。

 ビワイチにおいても、同様の視点からの施策の充実化が検討されている。ただし、ビワイチのように恒常的に多数のサイクリストが走るコースとなる場合、集客的にはとてもありがたいのだが、それは逆に言えば生活空間との接点がそれだけ増えることになる。

 場合によっては、観光公害とも言える状況になり、ビワイチでも住宅地を通るルート沿いの住民や、車を置きっぱなしにされる道の駅からの苦情や相談を受けることもある。

 こういった「サイクリングをする主体」と「される主体」との関係において、される側も実は自転車を利用するという点が特徴的である。サイクリストの自転車は悪者で、家族の自転車はかまわないというのは非論理的であり、むしろ自転車と車、歩行者や公共交通までも含めた、地域の移動力を適切に棲み分け、移動しやすいまちをつくろうという点では両者の距離は縮まってくる。

 サイクリストにやさしいまちは、住民の自転車利用にももちろん快適なのである。すなわち、エコツーリズムなどが地域文化を再生するきっかけになるのと同様に、サイクルツーリズムも地域にとっても意味がなければならない。

 例えば、今年2月にカナダの都市ウィニペグ(Winnipeg)で開催された「2nd International Winter Cycle Congress」では、冬期のサイクルツアーの課題とともに道路管理や自転車都市経営が同時に盛んに議論されていた。

健康・子育て・福祉とつながるサイクルツーリズム

 拙著『自転車コミュニティビジネス』でも紹介したように、自転車タクシーからサイクルカフェ、自転車屋台など、サイクルツーリズムといってもまだまだ多様な形態がありうる。場合によっては、福祉ともつながるような可能性が、さらに地域との接点を強めるヒントになると思われる。

 これからのサイクルツーリズムでは、「健康・カラダ」と「子ども・成長」がキーワードになると考えている。少子高齢化社会においてサイクリストも高齢化している。高齢者の健康にも自転車は有効であり、ヘルスツーリズムとしての自転車でもあるならば、住民も評価・参加する可能性が増える。

 また、子どもにとって自転車に乗るという体験は、ギアとの関係、乗りこなすというバランス感覚の習得やルールを守るといった成長過程においてとても重要なツールである。

 つまり、自転車というギアと共に家庭や地域で見守りながら成長していくきっかけとしてのサイクルツーリズムなのである。ビワイチでも、小学校高学年から親子でチャレンジする方々も多く、通過儀礼のようにもとらえられているし、トレーニングとして毎週周回する人もいる。

 住民の方々がいきいきと自転車と暮らしているまちこそ、サイクルツーリズムの聖地になれるのではないだろうか。

著者プロフィール

近藤隆二郎

近藤隆二郎滋賀県立大学環境科学部環境政策・計画学科教授

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