建築からヴォーリズ精神を伝える NPO法人ヴォーリズ建築保存再生運動一粒の会

2016.03.16滋賀県

「心地よさ」を伝える

近江八幡の新町通り
近江八幡の新町通り

 今回話を伺ったのは、NPO法人ヴォーリズ建築保存再生運動一粒の会理事橋元輝さん福永貴之さんだ。
 橋さんは近江八幡市に隣接する野洲市出身。学生時代に古いまちなみの保存などを研究しており、旧八幡郵便局トイレ改修の協力を呼びかけるチラシを見たのが参加のきっかけだ。
 福永さんは大阪で設計の仕事をしており、勤める事務所にNPO発足式の案内があったのが縁で参加し始めた。月に1、2回、理事会や旧八幡郵便局での「当番」に訪れる。大阪から来るには時間もかかるが、「だんだん今のような姿になってお客さんが来てくれたりして、成果が見えるのがうれしいですね」と話す。また耐震の壁をつくったり、塗装をしたりと「できることはみんな手でやっています。いろいろなことができるのが楽しい」とも話す。

 春や秋の観光シーズンには多くの観光客が近江八幡を訪れる。

八幡堀
八幡堀

 近江商人のまちなみや八幡堀、日牟禮(ひむれ)八幡宮やその境内に店を構える老舗和菓子店、バームクーヘンで有名な洋菓子店を訪れる人が多いが、旧八幡郵便局を訪れる人も増えている。


「観光バスのお客様が数十人、数百人単位で来られるときもあります。夫婦連れ、友達同士などのお客様が重なるときも。ヴォーリズ建築を目的に来られる方もいます」

 建築を専門とする人もいるが、「どちらかというと一般の方が、洋館としていい雰囲気だなと好きになる場合が多いという印象が強いです」と福永さんは言う。

旧八幡郵便局の事務室は現在多目的スペースに
旧八幡郵便局の事務室は現在多目的スペースに

 この住宅の魅力をどのように伝えているのだろうか。一粒の会では説明のパネルを作成して展示しており、さらに話を聞きたい人には会員が説明をする。


「建築家によっては建築に自分の主張を打ち出す人もいますが、ヴォーリズさんは住む人がいかに心地よいかを考えて、人にやさしい住宅、使う人に使いやすい住宅を目指されていました」

福永
「この郵便局でも、たとえば事務室にあたる部分は、昔なら外に対して偉そうな感じをつくると思うのですが、そうではありません。天窓があり、働いている人に対してきちんと明るい日が差すようになっています。
 また住宅でも、この時代は応接室を大事にする洋館が多かったと思うのですが、ヴォーリズさんは、台所はお母さんがみんなのために料理をする場所だから、家の中でいちばん日当たりのいい場所につくりなさいと言っていました。他にも、窓が開いていると風通しがいいなど、使う人の目線で考えていました。

 普通のことのように思えるかもしれませんが、明治の終わりから大正時代には、普通ではなかったのです。鹿鳴館など、政府の「お雇い外国人」がそのころつくった有名な洋館が多くありますが、海外の伝統的な様式できっちり正しくつくっているので、豪華絢爛としていて、偉そうな感じを受けることもあります。ヴォーリズさんはいい意味で素人くさいところ、庶民的な部分があって、一般の人にも居心地がいいのです」

天窓
天窓

 「心地いい」「居心地がいい」という言葉を、「天窓」という目に見えるもので説明し、また「使う人の目線」という見方を提示して、この場所を見ただけではわからない他の建築の情報も付け加えている。さらに他の洋館と比較し、その違いをわかりやすく伝えている。ただし、こうしたことを訪れた人すべてに話しているわけではない。

福永
「すーっと見て帰られる方もいらっしゃいます。聞いてこられたら説明をさせていただきます」

 相手を見て、相手に合わせた説明をしているようだ。

紫水晶と言われるドアノブを気に入り、写真を撮る人も
紫水晶と言われるドアノブを気に入り、写真を撮る人も

 

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