国登録有形文化財建造物をめぐる旅
生活に密着した建造物が多い
誰もが知っている有名な建造物の登録もある。最近はスカイツリーに押されて存在感が薄れがちだが、まだまだ東京のシンボルといってよい「東京タワー」。大阪では「大阪城天守閣」に「通天閣」。大阪城は、コンクリートで造られた紛(まが)い物ではないかという声が聞こえてきそうだが、戦前に市民の寄付で博物館として建てられた大阪のランドマークで、登録の条件を十分満たしている。
しかし、国登録有形文化財の真骨頂は、民家、商店、酒蔵、駅舎、病院など生活に密着した近代の建物である。
古くからの造り酒屋では、通りに面した店構え、その脇に建つ経営者の住まい、作業をするさまざまな蔵や煙突など敷地に建つ建造物が一体となって地域の景観を引き立てているケースもあるし、いくつかの鉄道会社では、連続した駅舎やトンネル、車庫、プラットホームなど沿線の施設が群として登録されているケースもある。
地域の風土を表していることも多く、お茶どころ静岡県菊川市にあるレンガ倉庫はお茶の葉を保存するために使われていたし、群馬県桐生市に点在するのこぎり屋根の工場は、絹織物で栄えた町を象徴している。沖縄の古民家には、屋外に石造りのトイレが設置され、そこで豚が飼われていた。その遺構も数多く有形文化財に登録されている。
那覇からさらに飛行機で1時間かかる絶海の孤島、南北の大東島にも登録有形文化財があるが、かつての島の主産業だった燐鉱石の貯蔵庫跡や、台風時に港に船を揚げるための動力室など、島の開拓の歴史を刻む建物が登録されており興味深い。
南大東島西港旧ボイラー小屋(沖縄県南大東村)
国登録有形文化財にはほかにも不思議な建物がたくさん登録されている。東広島市には、「時報塔」という名のこじんまりした塔があるが、これは村人に時間を知らせ、「定時励行」を促したもの。大正期に建てられている。
時報塔(広島県東広島市)
また、前橋市と兵庫県明石市にあるのが「ラジオ塔」。どちらも、大正末期に放送が始まったラジオの普及のために、日本放送協会の協力で昭和初期に全国各地の公園や広場に設置されたもので、すでに役目を終えているが、80年の歳月を経て塔はなお健在である。
前橋市中央児童遊園(るなぱあく)旧ラジオ塔(群馬県前橋市)
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