宿坊が持つ、インバウンド誘致と消滅寺社対策の可能性

堀内克彦宿坊研究会代表

2016.05.09

寺社の宿・宿坊とは何か?

宿坊での修行体験
宿坊での修行体験

 訪日外国人旅行者の増加に伴い、お寺や神社の宿泊施設「宿坊」に注目が集まっています。数年前までは仏像やパワースポット、修行体験など、寺社をカルチャーとして捉えたブームにより、宿坊は取り上げられていました。
 しかしこのところ、民泊に代表されるホテル不足の解消や地方の過疎化対策、観光資源発掘など、宿坊に期待が高まる場面は多層的に増えています。

 2000年に宿坊研究会を開設し、17年にわたって宿坊に泊まり続けた私の印象として、宗教に対するアレルギーが薄れてきたのがここ10年、そして政策やビジネス視点で寺社観光が積極的に語られるようになったのは、ここ2~3年です。私の元にもこれまでおすすめの宿坊を紹介してほしいという取材は多数来ていましたが、最近はこれに観光施策に焦点を当てた講演や執筆依頼も増えてきました。この記事も、まさにそのひとつです。

宿坊研究会
宿坊研究会ホームページ

 とはいえ、まだまだ宿坊は、日本でも深く知られているわけではありません。そもそも宿坊とは何か。私はお寺・神社が運営する宿を、広く「宿坊」と呼んでいます。「坊」という言葉からお寺のみと思われる方もいますが、神仏習合や廃仏毀釈の歴史的経緯もあり、宿坊と名のつく神社も多数あります。

 そもそもの起こりは平安時代、熊野詣や伊勢参りに訪れる上皇や貴族の祈願取り次ぎの宿として生まれた「御師の宿」が原形です。
 そして江戸時代、参拝旅行は庶民にまで広まっていきます。これを支えたのが各地の寺社に生まれた宿坊街でした。しかし明治時代の過激な仏教排斥運動により、宿坊は壊滅的な打撃を受けます。その後、弾圧は終了しても戦争や核家族化によるライフスタイルの変化、檀家や講中と呼ばれる信仰団体の縮小により、宿坊はその数を減じていきます。

 しかしバブル崩壊、平成の世に入り、宿坊を取り巻く環境は徐々に変わってきました。注目が集まり始めたのは先に述べた通りですが、平安時代に生まれた宿坊が江戸時代に花開き、一度壊滅的に落ち込んだものの再び返り咲こうとしている。人の心をつかむにはV字型のストーリーが必要と言われますが、宿坊の歴史はまさにこの構造に当てはまります。

 宿坊は単なるお寺・神社の宿としてだけでなく、信仰、芸術、経済、文化など、日本の精神形成に大きな役割を果たしたものです。こうした歴史経緯を踏まえると、これから海外に宿坊をアピールする上でも大きな武器となるでしょう。

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