健康を手に入れる旅・ヘルスツーリズム

荒川雅志琉球大学大学院観光科学研究科ウェルネス分野教授

2013.08.01

アジアに学ぶヘルスツーリズム

 超高齢社会の到来、情報化ストレス社会の蔓延、メタボリックシンドローム市場の顕在化などを背景に、健康への関心が高まる世の中である。

 近年、観光業界においても健康をテーマとした旅行商品が増えているようである。観光立国推進基本計画によると、自然豊かな地域を訪れ、そこにある自然、温泉や身体に優しい料理を味わい、心身ともに癒され、健康を回復・増進・保持する新しい観光形態を「ヘルスツーリズム」と定義し、地域活性の新しい切り口としてこのヘルスツーリズムに取り組む自治体も増えてきている。

 翻って海外に目を向ければ、参考となる代表的な健康デスティネーション・リゾートがアジアに存在する。
 タイ国首都バンコクの郊外ホアヒンにある、「命の楽園」を意味するチバソムは、心、体、精神の調和を目指し、現代医療と自然療法、相補代替医療とを融合させた、世界初のヘルス・リゾートとして知られる。朝日を浴びて生体リズムを整えるヨガ呼吸法やストレッチからチバソムの一日は静かに始まる。ここでは自身の健康に真摯に向き合うために、最低でも3泊以上の滞在が求められる。

 チバソムには、健康の価値を知るセレブ達、目的意識の高いゲストが世界中から日々訪れている。100を超える充実したウェルネスメニューに直に触れ、健康効果を実感し、その体験を帰宅後のライフスタイル処方箋として活かす。チバソムでの経験はパーソナル・ヘルス・レコードに蓄積され、再訪時には過去の自分と比較でき、継続してプログラムを行うことが可能な仕組みだ。また再びここに、心身のリセットに帰ってくることを強力にうながす旅の提案でもある。

健康を手に入れる旅への提案を

 疾病対策の最終的なゴールは、健康的なライフスタイルの獲得、およびその継続であり、そのためには自身の主体的な気づきを促す「行動変容理論」の導入が近年の保健指導の中心になりつつある。

 これらを旅行に置き換えるならば、旅先で出会う豊かな自然、食事、健康的アクティビティ、ストレス疲労を減らす休養環境、滞在先での生活見聞、交流などは全て「良質な気づきの素材」となる。対症療法では限界のある、根本的解決が必要とされる現代の健康問題に対して、良質な気づきのきっかけを提供し、かつ楽しみながら健康づくりが実践できるヘルスツーリズムは、地域資源に新しい価値を生み出すとともに、最新の行動科学に基づく健康増進アプローチになり得る可能性を秘めている。

 旅先での自然環境を利用した健康プログラムは、人間に生来備わっている自然治癒力を高め、健康へと導く力のあることが我々の研究でも実証されている。

 温泉、森林、海洋環境など豊かな天然資源に恵まれている我が国において、この古くも新しい旅、「健康を手に入れる旅」の提案を、長寿世界一という強みと相まって世界に発信していける日を来ることを期待している。

著者プロフィール

荒川雅志

荒川雅志琉球大学大学院観光科学研究科ウェルネス分野教授

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