よりよき観光文化の継承にむけて 第2回 地域資源と観光資源
ありのままの観光振興
そば(地元で産するとろろを使った高尾山名物とろろそば)。そばは、地域の多様性や歴史が表れる食事の一つ
話をB級グルメに戻しますと、蕎麦は、B級グルメといっているところはありません。ある蕎麦打ちの方に言ったら憤然と否定しました。意味の捉え方にもよりますが。蕎麦は最も日常的な食の一つですが、地域において、実、挽き方、こね方、つなぎ、打ち方、切り方、食べさせ方、器、作法、添え物、季節性など、同じようでこれほどさまざまな形を有しているものは少ないといって良いかもしれません。それでも蕎麦がB級グルメに参戦しないのは、その地域における歴史の深さと定着、そして蕎麦は作り手個人のこだわりに委ねられているというところにあるのでは。
多くのB級グルメは店や店の多さ、すなわち住民が食べる量と定着が基本になっています。そうしてしまったともいえます。その歴史もほぼ戦後の生活の中から生み出されたものが多いようです。蕎麦は住民自らが作り食べていたのに対し、B級グルメはお店で住民が食べていたというところが大きな違いのひとつではないでしょうか。
そば(新潟県へぎ蕎麦。地域の産業である織物につかうふのりをつなぎに使う海草つなぎ)
もともと郷土料理といわれるものは、地域で食していたものだったはずですが、いつしか住民の方には手の届かない、地域不在の特別な食べ物という位置づけになってしまっているのではないでしょうか。住民が食している地域食が、地域不在にならぬよう流通システムを含めてしっかりとした地域での地固めが必要です。
名物にうまいものなし、は実の伴わない評判倒れのもののたとえになっているようですが、名物にうまいものなしこそ地域食の特性であるともいえます。醤油一つとっても東の人は西の刺身醤油は駄目であり、西の人は東の醤油辛い汁は嫌いというように。
誰もが美味しく、栄養価があり、健康によい食べ物として地域食を改善していくことも大切だとおもいます。が、せっかく地域の人が足繁く通っている店の味を、イベントや観光客のために味の競い合いだけで換えてしまうというのは、何か違うような気がします。これからは、不味いで結構、というような骨太な地域食、来るなら来てみろといった骨太の観光振興の方向性が求められているのではないでしょうか。
蕎麦イベント(各地の手打ち蕎麦を味わうことができる)
(第3回へ続く)
よりよき観光文化の継承にむけて 第1回 ニューツーリズムと従来型観光
■著者プロフィール
1972年社団法人日本観光協会に入協。計画調査課長、調査部長、総合研究所長を経て、2008年より現職。NPO法人観光文化研究所理事長、内閣府・国土交通省観光カリスマ選定委員会委員なども務める。専門分野は観光計画・調査、観光行政、造園計画。
スポンサードリンク