よりよき観光文化の継承にむけて 第3回 観光文化の立ち戻り
老舗型観光地と観光地ファン
観光地のタイプを商店と照らし合わせて分類してみると、老舗型観光地、デパート型観光地、コンビニエンスストア型観光などの観光地形態が浮かび上がります。商品という視点から考えると、老舗型は長い年月をかけて培ってきたブランド商品があります。デパート型は一応安定的に必要なものは何でもあります。コンビニ型は、今求められる必要最小限のものがそろっています。
観光地としての特徴を考えると、老舗型観光地は、地域主体の時代に惑わされない、求めてくる人の目的が絞られている観光地でありリピーターが多い。デパート型観光地は、色々な活動や施設が整っており、幅広い年齢が楽しめる観光地であり、そのため団体客が多い。コンビニ型観光地は、需要を見据えブームに対応しながら常に小さなリニューアルを繰り返している観光地ではないでしょうか。
文化には、大きくは普遍的なものとして持続していく文化と、何かの要因によって短期間で変化をしてしまう文化とがあります。老舗型観光地は、普遍的な持続文化を基調にした観光地であるといえましょう。
いつの時代も日本人の誰しもが思い抱く文化があるところ。原風景ともいえるものかもしれません。観光地のファンづくりというテーマを与えられ、観光施策をかぎ回ったことがありますが、効果的な成果を上げている施策は見あたりませんでした。そのほとんどが会費で会員になり年に何回か物産を贈るといったものであったりFacebookを立ち上げたりするものでした。
ファンを作るためにはそれなりの信頼あるいつまでも変わらぬ良さを有する観光地づくりを行い、徐々にファンを虜にしていくことしかないと思います。
ブランドは信頼と継続から生み出されます。今だからこそ、そんなブランドを抱き続けてきた観光地が、胸を張って名乗り出るときです。
基礎に立ち返る
一時期方向が見えなくなった旅館も、先ほどのISOの基準、快適な安眠と清潔な水回りに立ち戻ることにより、宿泊施設のサービスのあり方が見えてくると思います。
ISOの基準に対する整備が対価としてのサービスであり、それ以上のサービスは付随サービスということになります。付随サービスは地域や宿の個性を提供するというサービスであるといえます。対価としてのサービスの徹底した整備と地域や宿の個性、それが宿泊文化を創り上げていきます。後者にばかり惑わされ、肝心な前者すらできていない宿が多いのではないでしょうか。
基礎に立ち戻り、地域の良さ、地域のブランド力に自信を持ち継続すること、そして旅人と呼ばれる人が訪れることを気長に待ち望むこと、それがニューツーリズムに対応した観光地なのかもしれません。
“萌え”や“クールジャパン”もよいですが、私は、観光地には古くても今に持続する“侘び寂び”のほうが何となくしっくりくるのですが。
(第4回に続く)
よりよき観光文化の継承にむけて 第1回 ニューツーリズムと従来型観光
よりよき観光文化の継承にむけて 第2回 地域資源と観光資源
■著者プロフィール
1972年社団法人日本観光協会に入協。計画調査課長、調査部長、総合研究所長を経て、2008年より現職。NPO法人観光文化研究所理事長、内閣府・国土交通省観光カリスマ選定委員会委員なども務める。専門分野は観光計画・調査、観光行政、造園計画。
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