誰もが暮らしやすいまちをめざして 青いかば旅行社の挑戦(前編)

2014.11.17静岡県

旅は自信、旅は生きるためのステップ

 近年「ユニバーサルツーリズム」という言葉がよく聞かれる。観光庁ホームページではユニバーサルツーリズムについて「高齢や障がい等の有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行を目指しています」と紹介している。障がいのある方の「バリアフリーの旅」への取り組みが以前から行われてきたが、2000年代中ごろから「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方が広がり始め、観光の分野でも「UDツーリズム」「ユニバーサルツーリズム」という言葉が多く使われるようになってきた。バリア(障がい)を「取り除く」という考え方から、バリアを「生まない」という考え方への進化だ。

 浩平さんは「健常者向けのツアーと障がい者向けのツアーは分けて考えるべきではないか」と話す。こうした中で、青いかば旅行社のツアーには他社にない特徴がある。

浩平:「障がい者は健常者向けのツアーには参加できない。しかし、障がい者向けとすると障がい者だけになり、健常者の人がつまらなくなってしまいます。うちでは健常者の人も楽しめるし、障がいのある方も自分が障がい者だと意識しないようなツアーを考えています」

 障がいがあるとなかなか外に出られず、引きこもりがちの方も多いと二人は話す。

浩平:「外で、杖や車椅子の方を見かけることは少なくありませんか。私も病気になる前は、そういう状態が普通だと思っていました」
 
 出られない理由はよく理解できると浩平さんは話す。

浩平:「一つはトイレの場所や段差など物理的な面。もう一つは、中途障がいの場合、元気なときの自分を分かる人に今の状況を見せたくないということがあります」

 ツアーのリピーターの一人は、脳梗塞で半身まひになった50代の男性で、ツアーに参加する前はあまり外出しなかったそうだ。

優子:「友達に誘われて参加してみると、人とのかかわりがとても楽しかった。それで何度も参加するようになり、今では友達の手を嫌がらずに借りて外出するようになりました。アイドルのコンサートにも行かれたそうです」
 
 半身まひで杖を使う埼玉の60代の女性は、ツアー参加のため、障がいをもってから初めて一人で遠出したという。

優子:「参加が自信につながり、帰り道では、健常者でも10分以上かかる乗り換えを杖で歩ききったそうです。それから何でもやる気になって、就職されました。旅行を楽しむだけでなく、自信にもつながっているようです。生きるためのステップになったのかなと、手応えを感じています」
 
 ツアー参加が自信につながる。前向きに生きるきっかけにもなる。青いかば旅行社のツアーはそれだけの力を持っているのだ。

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 観光庁が今年3月にまとめた「ユニバーサルツーリズムの普及・促進に関する調査」では、モニターツアーに参加した障がい者・介助者にアンケートを行ったところ、旅行後に積極性や前向きな気持ちが向上し、心の乱れが安定するという結果が出た。旅行中に楽しむだけでなく、旅に出られた、行程についていけたということが、日常生活にも影響を与えている。
 青いかば旅行社の場合、参加者の輪に加わり話をすることが、より自信につながる面もあるのではないだろうか。

 一方で、なかなか参加者の輪が広がらないことが課題だと話す優子さん。

優子:「旅行に行こうと思うまでのハードルが高いようです。一度参加した方は良さが分かるけれど、なかなか参加に踏み切れない。ツアーへの安心感も問題です。大手の会社なら、なんとなく安心感があるかもしれないのですが」
 
 この難しい課題に対し、継続して行っていることの一つがインターネットを通した発信だ。ツアー参加者は、ブログやフェイスブックなどで青いかば旅行社を知ることが多い。

優子:「できるだけ自分たちの思いを発信するようにしています」

 後編では、青いかば旅行社のある伊東のまちづくりや、まちでの活動について紹介する。

(取材・文/青木 遥)
 
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