能登半島の先で旅人の心を楽にする「小さい港のゲストハウス」(石川県珠洲市)

2015.03.16石川県

夫婦の楽しさが、客の心をほどく

 二人の今後の夢をうかがうと、すぐに答えが返ってきた。
市郎:「立派な陶芸家になる」
信子:「立派な居酒屋をやる」
 居酒屋? 想像していなかった答えだ。

信子:「今のゲストハウスは借家ですが、いつかは自宅をゲストハウスにして、『典座』と合わせて一つの建物でやっていきたいですね。そして、今はオフシーズンに各地のイベントに出展していますが、何年かしたら小さい居酒屋を開きたいです。夫婦二人でできることをしたいですね」

 夫婦二人で、それぞれ得意なところを自分の役割としながら、ともに働き、生きる。それは二人にとってとても楽しいことのようだ。

信子:「典座の仕事でいちばん好きなのは、お客さんが来たときに、私とお父さんが「いらっしゃい」と二人で出ていけること。二人で顔を出せる仕事をしているのがいちばん楽しいんです。私が話している間に、お父さんがお茶を用意してくれるとか」

市郎:「そうなの?私は、お客さんがよかったよって喜んで帰ってくれると、やったぜって思いますね」

信子:「店の夫婦の仲が悪いとお客さんにも伝わりますよね。うちではそれはないです。サラリーマンではないので、そういう立場でしかできないことを、自由にやっていければと思います。この先はどうなるかわかりませんが、やれるうちに楽しんで、頑張ろうと思います」

 かしこまって迎えられるわけではないが、広い部屋で自由に休める。女将も主人も楽しそう。その「楽」な雰囲気をかぎつけて、旅人も滞在者もやってくる。他に宿の選択肢がなくて来た人も、信子さんや市郎さんとの出会いで、その一泊が特別なものになる。きっと二人は、自分の心を偽って摩耗させるようなことはせず、心からしたい、してあげたいと思ったことをしているのだ。ゲストハウスも、二人のそういう生き方の中にある。
 全国に増え始めたゲストハウスは、それぞれ個性的な魅力を持っている。「小さい港のゲストハウス」の魅力は、能登の風景の中で、楽しそうに生きる二人の生き方を感じて、楽に一息つけるところにあるのではないだろうか。そんな場所に、日々心に型を押し付けられている人々は魅力を感じ、旅してみたくなるのだろう。「旅とは、ゲストハウスはこういうもの」そんな固定観念を取り払うゲストハウスが、ここにある。

(取材・文/青木 遥)

1 2 3 4

スポンサードリンク