ユニバーサルツーリズムに対応した観光地づくりシンポジウム
知れば、可能性が広がる
「旅のユニバーサルデザインを民間の手で創る」をテーマにしたトークセッション
トークセッションでは、民間の立場で活動している二つの団体と、それを使用して旅をしている側から報告が行われ、それをもとに課題が提起された。
紙屋久美子氏は、2014年にかごしまバリアフリー相談センターを立ち上げたばかりである。旅館やホテルの調査に訪れても、調査を断られることがたびたびあった。しかし講演会を開いたり、大手のホテルのUDルーム設置に助言したりしたことが新聞などで取り上げられるようになり、少しずつ認知度が上がっていったと述べた。
かごしまバリアフリー相談センター/NPO法人eワーカーズ鹿児島 理事長の紙屋久美子氏
嬉野温泉バリアフリーツアーセンター会長の小原氏はもともと旅館経営者であり、全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)の会長も務めた。温泉では「温泉に入ること」がもっとも大きいアクティビティであり、嬉野のセンターでは入浴介助も行っている。このサービスがあるために他の温泉地をやめて嬉野温泉を訪れた人もいたことが報告された。
椎名勝巳氏は事故で障がいを抱える身となったが、自らもダイビングを続け、障がいを持つ人や高齢者にダイビングの指導を行っている。会では、セブ島を訪れたときに、誰かが磯までが青竹を半分に割ったものを敷き、車いすが埋まらないようにしてくれたエピソードが語られた。これについて中村氏は「UDというよりも、その土地の普通のおもてなしで、その考えが大切」であると述べている。
国内各地をはじめ31カ国の温泉を訪ねている山崎まゆみ氏は雑誌で、足腰が弱った親を連れて行くのにおすすめの温泉地を紹介する「親孝行温泉」という連載をしており、読者からたいへん大きい反響を得ていることが報告された。「こうした温泉があることを知らない方が多いです」と山崎氏は語る。
ユニバーサルツーリズムというと、誰もが旅行を楽しめる環境づくりという面からとらえられる場合が多いが、今回のように、そこに無視できないほどの大きさのマーケットがあるという考え方によって、多くの事業者が注目し、取り組むことにつながると考えられる。
山崎氏の話からは、ユニバーサルツーリズムに対応する施設や、各地のバリアフリーツアーセンターの存在を知らない人がまだ多くいることがうかがえる。多くの人がユニバーサルツーリズムについて知ることが、希望をかなえ、さらなる需要を掘り起こすことにつながると考えられる。そのためには、「ユニバーサルツーリズム」という言葉の説明法についても、事業者も行政もメディアも、さらなる工夫が必要なのかもしれない。
(取材・文/青木遥)
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