松江ゴーストツアー 怪談の資源化をめざす文化観光-

小泉凡島根県立大学短期大学部総合文化学科教授

2013.02.01島根県

ダブリンのゴーストバスから着想

 松江ゴーストツアーは、城下町松江に伝承される人柱伝説をはじめとする怪談を、着地型観光プランとして生かす実践である。怪談は地元の民話研究者や小泉八雲(ラフカディオ・ハーン/1850-1904)によってすでに、採集・再話され、書承文芸となっているが、ツーリズムへの資源的活用には至っていなかった。

 発想のきっかけは、2005年8月に体験したアイルランド・ダブリンのゴーストバスだった。

 お化けの絵でラッピングされたダブルデッカーのダブリンバス(市バス)で、プロの語り部の怪談を聞きながら、数カ所の墓地や、『ドラキュラ』の著者ブラム・ストーカーゆかりの地に立ち寄るもので、実に楽しく、学びの多いツアーだった。

 翻って、松江を眺め渡したとき、同じように豊富な怪談が伝承され、作家小泉八雲によって主な話は英語で世界に発信されていることを改めて思い起こした。

 帰国後、ただちに、2006年から指定管理者制度により市内の観光文化施設の管理運営を始めたNPO法人松江ツーリズム研究会と相談し、同年夏に松江市交通局からレトロ調のバスを借り上げ、試験的にゴーストツアーを実施した。好評を得たことから恒常的な観光商品化を同法人ともに検討した。

 その後、国土交通省のニューツーリズム創出・流通促進事業の補助金を得て、ガイドの公募、研修を行い、4名のプロのガイドを育成した。ガイドには、小泉八雲研究、郷土史研究、口承文芸研究、語りの技法、ホスピタリティー論という5つの観点から、かなり本格的な研修を受けることでモチベーションを高めてもらった。並行して、先進地であるロンドンやニューオーリンズにも赴き、ゴーストツアーの情報収集を継続した。

夜の松江を耳で楽しむツアー

 2008年8月、ついに「松江ゴーストツアー」がスタートした。「カラコロコース」(ゴーストツアーのみ:1,500円)と「へるんコース」(ゴーストツアー+講演・宍道湖七珍の会席料理:5,800円)の2コースを設定した。

 ツアーでは、プロのガイドの語りを聞きながら松江城内のぎりぎり井戸、月照寺、清光院、大雄寺などの怪談スポットを2時間余りかけて徒歩で巡る。2012年末までの4年余りで土曜日を中心に171回実施し、のべ2,815名の参加者が夜の松江を耳で楽しんだ。

 当初は県内者が多くを占めたが、ここ2年ほどは70%が県外者である。4年以上にわたり一度も赤字を出さずに継続できたことは奇跡的といえるかもしれない。

 今後も、「豊かな遊び心」「耳で楽しむ夜の松江」「闇への畏怖の念」「地域文化の魅力を楽しみながら学ぶ」という4つのポリシーを念頭におき、いっそう内容を進化させなければならないと考えている。

 怪談という無形の文化資源と小泉八雲という人的資源を観光に生かす取り組みは、巨額の投資の必要としない新しい経済活動としても一定の意味があると考えている

著者プロフィール

小泉凡

小泉凡島根県立大学短期大学部総合文化学科教授

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