地域資源の観光利用に向けた事前の合意形成
ブームの中で、関係者の合意形成の難しさ
兵庫県北部にある竹田城跡がブームに沸いている。竹田城跡は「日本のマチュピチュ」、「天空の城」と称され、特に南北400メートルにわたる石垣が雲海上に現れる姿は美しい。竹田城跡の来訪者数は2007年度に2万人であったが、わずか5年で20万人を突破した。地域資源を生かした観光振興をめざす地域にはうらやましい限りであるが、地元は素直に喜べる話ばかりではない。
観光シーズンになると、駐車場は早朝から満車になり、城跡へ向かう道路は渋滞が続く。城跡では、石垣の石を持ち去る者やキャンプをする者が現れ、来訪者の急増によって石垣が崩落する恐れまで出てきた。
もちろん、地元も手をこまねいている訳ではない。道路を一方通行にして混雑緩和を図ったり、駐車場や観光施設を整備したり、自動車でのアクセス禁止期間を設けたりするなど、竹田城跡の保全や経済効果の享受に向けた対策を講じている。しかし、地元の対応は後手に回っていると言わざるを得ない。
なぜなら、地元関係者間の合意がなかなか得られないからだ。地元関係者の多くが「このブームはいずれ終わる」と思っている。そして、これを機に他の観光資源をPRしたい者、多少の過剰利用であっても経済効果を優先したい者、以前の静かな雰囲気が失われて嘆く者など、地元には多様で複雑な思いがある。それぞれの思いの調整に時間がかかり、結果的に対応が遅れてしまう。
地域資源と観光客を結び、地域に還元を
観光では、地元の意向が及ばない観光客と向き合わなければならない。しかも、地域資源がいったん観光利用されると、もはや後戻りはできない。この対応だけでも大変なので、せめて観光資源化を図る前に、地元関係者間の合意を得ておいた方がよい。竹田城跡の場合、地元関係者間の合意を得ないうちにブームを迎えたため、さまざまな思いがむき出しになってしまった。
地域資源の観光利用に向けた合意形成を図る上で、「中間システム」が役に立つ。中間システムとは「地域資源と観光客を結びつけて価値を創造し、それを地元に還元するしくみ」である(詳細は『観光の地域ブランディング』学芸出版社, 2009年を参照)。
中間システムを意識することで、地域資源を「利用」してどのような利益を得るか、そして地域資源をどのように「保全」するかという両者のバランスを考え、望ましい観光の姿を見出すことができる。
観光資源を観光客に認知してもらうことは難しく、それゆえPRに力を入れる地域は多い。しかし、それと同じくらい、地元にどのような利益を還元するかについて、地元関係者間の事前の合意を得た上で、地域資源の観光利用を進めるべきである。
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