観光客の安全は住民の防災意識から 神奈川県鎌倉市
地域の防災が観光時、観光客の防災に
観光客は津波の後、交通機関が動かなければ帰宅困難者となる可能性がある。鎌倉市では東日本大震災時に約5,000人の帰宅困難者が発生した。これを踏まえ、震災後、帰宅困難者用の一時滞在施設を設置した。乾パンや水、アルミのブランケットなどの備蓄品もある。JRなどと誘導等の訓練も行った。
一時滞在施設の鎌倉生涯学習センター
また観光スポットに加え、防災拠点でもWi-Fi接続環境を整備している。
生涯学習センターのWi-Fi表示
普段は外国人の利用を目的とした無料Wi-Fiだが、災害時は誰でも使える。災害時に外国人が、必要な情報を自力で得るための助けにもなる。
さまざまな対策を行う鎌倉市だが、解決困難な問題もある。
長崎:
「正月の三が日には、鎌倉駅から鶴岡八幡宮までの道は人でいっぱいになりますし、夏の花火大会にもとても多くの人が訪れます。万が一そうしたイベント時に津波が起きたら、おそらく大変なことになるでしょう。しかし、そうした人出のピーク時を前提に対策をするのは無理があります。そこが悩ましいところです」
今年4月の熊本地震に関する報道で長﨑さんが注目したのが、避難所暮らしの厳しさだ。高齢者らが避難所で過ごすのを遠慮し、車で寝泊まりをしてエコノミークラス症候群を起こすなどの問題が報じられた。
長崎:
「これまでは一般避難所と福祉避難所を分けて考えていましたが、一般避難所にも支援の必要な方が来られることがわかりました。その前提で準備しておくよう、考え方をシフトしているところです」
今後は津波だけではなく、災害対策を「トータルで考えなければならない」と長﨑さんは話す。
長﨑さんへの取材後、鎌倉のまちで実際に避難経路を歩いてみた。
まずは鎌倉駅付近。ここから直線距離で最も近い津波来襲時緊急避難空地は妙本寺だ。妙本寺への避難用のサインは見当たらなかったが、観光用の看板が何カ所もあり、迷わず着くことができた。
妙本寺には避難空地としてのサインは見当たらなかったが、これは後で長﨑さんに聞くと、避難の最終地点だと考えさせないためだそうだ。決められた場所に着いたと安心せず、状況を自身で考え、より高く安全なところへ避難するのが原則だ。
次に由比ヶ浜海水浴場では、定期的なアナウンスや、電光掲示による津波情報板などで注意を喚起している。
津波情報板
海岸から通じる道には、避難所、津波来襲時緊急避難空地、広域避難場所である御成中学校への避難経路のサインや津波避難ビルがあり、防災行政無線の子局もあった。
避難経路のサイン
防災行政無線の子局
こうしたサインはもちろん有効だが、くまなく張り巡らすには限界も感じた。やはり観光客自身が情報を持っておく必要があるのではないだろうか。鎌倉を訪れる観光客は、動画を事前に見るという対策ができる。動画にある対策は他の地域でも応用が利くだろう。
また、地域住民の防災意識が高まれば、住民について避難する観光客の安全を守ることにもつながる。さらに住民が地域外で観光しているときにも、自分の地域での防災知識を応用させ、身を守ることにつながるだろう。
さらに観光客への対策を進めるとすれば、住民に「声掛け避難」の考え方を理解してもらうことは、予算に関わりなくまず試みることのできる対策なのではないだろうか。
(取材・文/青木 遥)
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