観光客の安全は住民の防災意識から 神奈川県鎌倉市

2016.08.16神奈川県

津波シミュレーション動画で事前に伝える

 ただ、観光客にもある程度「自助努力」があった方がいいと長﨑さんは考えている。

長崎
「津波への危機感も必要だと思います。脅かすわけではありませんが、リスクの要素を伏せてまで観光誘致するべきなのかと考えたりもします」

 そうした中、昨年度市が制作したのが、津波シミュレーション動画「鎌倉で津波から生きのびる」だ。

2016.8.16観光客の安全は住民の防災意識から―神奈川県鎌倉市
津波シミュレーション動画「鎌倉で津波から生きのびる」

 約15分の動画では、市内の4地点の実際の風景にかぶせて、CGの津波が襲ってくる様子が映し出される。最後に、避難の仕方や避難場所なども説明している。映像は「リアル」だと大きな反響を呼び、テレビのニュース番組でも何度も取り上げられた。

長崎
「東日本大震災から5年経ち、どうしても危機意識が薄れてくるところがありました。震災の記憶を風化させることなく、市民の皆さんに危機意識を持ち続けていただくことが重要だというのが、制作の最大の理由です。リアルさにはこだわって、相当気合を入れて作りました」

 架空の風景では意味がないだろうと、ピックアップした4地点の実際の風景を入れた。津波警報のサイレンも「リアルさ」を高めている。津波を水色で表現するCGもあるが、実際には津波は黒い。東日本大震災の映像を参考にして制作した。

長崎
「ハザードマップで、例えばこの地域には8mくらいの津波が来るとわかれば、理屈の上では、情報として十分です。しかしCGで見ると、ここまで来るんだ、逃げなきゃだめだと思ってもらえるはずです。なくてはいけないものではありませんが、イメージを持ってもらうためには、こういう表現方法もあるのではないかと思います」

 今年3月にYouTubeで公開した動画の再生回数はすでに29万回を超え、これを収録したDVDは50回以上貸し出されている。

 作成時、観光地である鎌倉市がこのような動画を公開することで、「観光客が減るのではないかという苦情も覚悟していた」という長﨑さん。しかし「海の近くの観光業者や店舗、観光に来る方からも苦情はなかったです。テレビで流れたときに、東日本大震災で被災された方からちょっとやりすぎじゃないかという電話が数件あったりはしましたが、住民に危機意識を持ってもらうために、あえてこういうものをつくったと説明しました」

 よかったという反応は市内外からとても多かったそうだ。

長崎
「ツイッターを見ると、『観光地の鎌倉がよくこんなことやったな』とか、『観光地としてこういうリスク情報をきちんと出すことは正しい』というようなことも書いてありました」

 狙ったわけではないが、不利益とも考えられる情報も公開することが、結果的に鎌倉市のイメージアップにつながった側面もあるようだ。

「鎌倉ってやっぱり津波が来るんだね」というコメントもあり、鎌倉での津波の危険を認識してもらえたようだ。

長崎
「観光客への事前の呼びかけとしては、動画は一番効果があったのではないかと思います。いたずらに不安をあおっているわけではなく、逃げ方も伝えているので、鎌倉の海の近くに来るなら、動画を一度見ていただいてもいいのではと思います」

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