森林セラピーと観光振興について現状と課題

西村典芳神戸夙川学院大学観光文化学部教授

2014.06.16

森林セラピーの現状

 森林セラピーの先進国ドイツをはじめとした欧米諸国では、自然療法が盛んに行われてきており、森林セラピーはその一つの要素として位置づけられている。各地の森林には保養のための施設があり、行政や研究機関による協力体制も整えられている。また、保険の適用が可能であるなどの法的支援も行われることで、より人々が森林セラピーに親しみやすい環境となっている。

 森林セラピーを医療的保養の一つに取り入れるというスタイルは、欧州諸国の国々に見られる特徴で、いずれの国でも、もともとの自然環境を有効に利用した保養施設が整えられ、より自然に近い効果的な健康保養地となっている。

 わが国では、「森林セラピー」という言葉よりは「森林浴」の言葉の方がなじみ深い。林野庁が昭和57年(1982)に「健康・保養に日本の森林を活用しよう」と提唱する際、「森林浴」という言葉をキャッチフレーズ的に使ったことから広く知られるようになった。

 それに乗じて、「日本の森林を21世紀に引き継ぐため、また、自然保護の精神を養い国民の健康増進に役立てること」を目的として、全国各地から100カ所の森を選んだのが、「森林浴の森日本100選」である。林野庁と緑の文明学会、地球環境財団が共同で、昭和61年(1986)に制定した百選である。筆者の身近なところでは六甲山の「布引と再度山」が森林浴の森100選に選定されている。

 さらに、平成18年(2006)4月に、わが国初めての「森林セラピー基地」が6カ所、「セラピーロード(ウオーキングロード)」が4カ所誕生している。現在では、国内各地の57カ所が認定されている。

 「森林セラピー基地・セラピーロード」を認定する際には、すべての候補地で、人の心身が本当に癒されるかどうか、生理学・心理学的な調査が行われなければならない。例えば、生理学的調査では、森林の中でストレスホルモン(唾液中コルチゾール)や交感神経、副交感神経、血圧、脈拍などを測定し、都市環境と比べて科学的に癒し効果があるか否かを検証する。

森林セラピーの課題

 森林セラピーを発展させるには2つの課題がある。第一に、医療連携の仕組みをどのように構築していくかである。そのためには、今まで以上にエビデンス(医科学的根拠)を構築していく必要がある。もう一つは、森林セラピーを中心とした中長期滞在が可能な健康保養地をいかに整備していくかである。それには、デイレクターの養成が必要となる。

 ドイツの現状を見ると、1990年代当初の健康保養地滞在者やテルメ(温泉治療や保養の中心となる施設)を利用する人の約80%が、保険適用の処方箋により滞在していた。しかし、平成9年(1997)以降、医療保険第3次改革で、保険適用の滞在者数は、平成16年(2004)には総数のほぼ20%前後と大幅に減少した。その後、平成23年(2011)には自費で健康保養地に滞在したりテルメを利用する人が増え、約80から90%近くが自費でウェルネスに取り組んでいる。

 さまざまな健康保養地では、いかに自費で賄う保養者から来てもらえるようにするかということが大きな課題になっている。

 この課題に対応するため、テルメなどの施設運営責任者となるデイレクターが、インフォメーション施設や観光関係の業務を受託して健康保養地のPRとともに施設を総合的に運営していくことが必要となる。行政はテルメなどの施設の運営を専門業者に委託し、行政にはないノウハウで収益を上げたり、観光関係の責任者には民間で業績を挙げている人材を配置したりと、さまざまな対応で民間の能力やノウハウを活用していかなければならないだろう。

 最後に、オーストリア・フランスの現状を見ていると、温泉場ではテルメの建設ラッシュである。そこには、生命保険会社が加入者の治療を目的に資本を投下しているからである。このことはわが国でも検討すべき課題でもある。それには、上記の課題を解決し、医療連携を進めて健康保養地を構築する必要がある。

著者プロフィール

西村典芳

西村典芳神戸夙川学院大学観光文化学部教授

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