現代の「宿」、ゲストハウスの魅力とは
宿は文化・情報・人の結節点
札幌市内で開催されたイベントの交流会(2011年10月、筆者撮影)
大野正人氏(高崎経済大学地域政策学部教授)によれば、かつて宿は居酒屋や雑貨店などの機能も果たす多機能な場所だった。それゆえ宿は、旅行者と地域住民が出会い、語らう場所としても機能していた。しかし、近代化の波とともに分業化・細分化・大型化が進むと、そこに残ったのは宿泊機能と料飲機能に重きを置いたホテルや旅館だったという。こうした指摘を踏まえると、現代のゲストハウスはまさに宿であり、そこに旅行者や近隣住民らが集うことで、さまざまな国の文化や情報が行き交う結節点でもあると考えられる。
こうした動きは、地域を舞台としても繰り広げられている。例えば、2011年10月には、札幌・東京・長野の3地域で営業する6軒のゲストハウス経営者によって1泊2日のイベントが企画・実施された。このイベントの主旨は、“ゲストハウス経営者らが会いたい/イベント参加者に会わせたいと思う人(札幌市中心部で飲食店などを営む事業者ら)の職場に行って話を聞きつつ、札幌のまちもゲストハウスも楽しもう”だった。定員25名のところ24名の参加があり、終了後には「また参加したい」という意見が多数聞かれた。これは一例に過ぎないが、こうしたイベントがきっかけとなり、その地域の商店・住民と旅行者の関係が構築されていく可能性はあるだろう。
今年も全国各地で新たなゲストハウスが誕生すると思われるが、その一軒一軒が地域に根差しながら地元さらには日本の文化や情報、そして人の結節点となることを願っている。
札幌市内で開催されたイベントでのまち歩き(2011年10月、筆者撮影)
■著者プロフィール
和歌山県生まれ。旅行会社勤務、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士前期課程修了を経て、現職。主な論文に、「国内における宿泊施設型ゲストハウスの経営と利用の実態に関する研究」(『都市計画論文集』49巻2号)、「ゲストハウス運営者の開業動機とその構成要素に関する考察」(『観光・余暇関係諸学会共同大会学術論文集』第4号)などがある。
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