エコツアーで「感動」「癒し」「リフレッシュ」を提供 地元の人も観光客も富山の魅力で元気にしたい
エコツアー「大長谷 森のキノコでイタリアン」。ガイドの村上光進さんがキノコの名前や食べられるかどうかについて教えてくれる
アットホームな雰囲気を大切にしたツアーを提供
創業後は、食の体験、グリーンツーリズムなどのツアーを行いながら、興味があった森林セラピーに取り組むために、仲間とガイドの勉強をしたりプログラム作りをしていた。
3年目になったころ、近くの商工会が地域活性化事業として、エコツアーと食の企画に取り組むことになり、エコツアー企画の部分で声がかかった。それから地域資源を活用したエコツアーづくりに取り組むようになった。
このころから、地域の協議会や商工会、行政などから声がかかるようになり、より地域密着のツアーづくりの仕事も増えていった。
地域のなかで、交流事業や体験活動をしている人たちは多い。すでにあるこうした活動をベースに、それがどうやったらコンスタントに継続できる「商品」になるか、商品として販売するか、が仕事だ。
ツアーは「商品」なので、価格設定やタイムスケジュール、ガイドの仕方などの作りこみが必要だ。そうした部分の手伝いをするのが、ツアー会社の仕事だと思う。
地域の人たちと一緒になって、できることできないこと、より磨き上げたほうがいいことを探していく。地元でガイドができそうな人を見つけ出し、(すでにボランティアガイドとして活動している人や何かしらのガイド経験がある人が多い)、そうした人たちに協力をしてもらいながら、エコロの森のガイドとして案内してもらっている。
エコツアー「大長谷 森のキノコでイタリアン」。前菜、ピザ、パスタなどの料理を担当する村上恵美さん
商工会の事業から始まった人気のツアーが、「大長谷(おおながたに) 森のキノコでイタリアン」というツアーだ。大長谷というのは里山の奥深いところにある集落で、キノコや山菜がいっぱいとれるところ。地元ではキノコ教室や山菜教室を開いていた。
これまでイワナ定食や山菜定食といった和風料理の提供が中心だったところに、イタリアンを得意とする若い女性シェフがUターンをしてきたので、キノコ探しのガイドは地元の人にしてもらい、そのあとはシェフの作る旬のキノコを使ったピザやパスタのコース料理を食べるというツアーを設定して、毎年春は山菜、秋はキノコをメインにツアーを行っている。
ガイドは、もともとハンターだった「おっちゃん」と呼ばれている方が最初から務めてきたが、ツアーを開催していくうちに若手が育ってきたので、おもてなし力は向上していると思う。
ツアーは、ガイドの案内で少人数で行っている。ガイドの話が良く聞けるのはもちろんだが、参加者同士が仲良くなれたり、いろいろと話が弾んでツアー全体の雰囲気がとってもアットホームな感じになる。
ツアーで一番楽しいのは、「体験」「学び」だけでなく、「人と人との交流」の部分だと思っている。人は旅する時に「勉強」しに来ているわけではなく、「感動」「癒し」「リフレッシュ」などを求めているはずだ。だからそれを提供できることが第一だ。
そして地元の人の「大歓迎」の笑顔やおもてなしが何よりだと思う。
ガイドの技術については、それぞれが回数をこなしていくうちに得ていくものがあると思うので、あまり細かいことを指示はしないが、私が考えている理想的なガイドの在り方は6つある。
・ツアーは楽しみのためにあることをわかっている(指導的ではない)
・お客さんの望むことを察知してかなえてあげられる
・さまざまな引き出しを持っている
・人柄が大事
・ガイドの在り方をとおしてひとりでに「保全」の大切さが伝わっていく
・その他必要なスキルを持っている(時間管理、安全管理など)
ガイドは、地元のことをよく知る人もいれば、私のようにガイドの勉強をして活動している人、プロガイド(登山やサイクリング)などさまざまで、ツアーごとにいろいろな形で関わってもらっている。
ガイドができそうな人はまだまだたくさんいるので、これからもいいガイドに出会って、ツアーのレベルアップを図りたい。
最近は、海外の観光客がとても増えているので、英語や中国語でガイドができる通訳案内士やガイドがますます必要になると思う。
冬には世界遺産として有名な五箇山地区のスキー場エリアの森をかんじきで歩くツアーを開催 海外からのお客様を案内する機会が増えている
創業から数年と、現在は1人で会社を回しているが、かつてはスタッフ(社員)がいて、県などの行政の委託事業を実施していた時期もある。1人でできることは限られているので、来年以降は、またスタッフを増やし、旅行商品やツアー商品をより充実させたいと思っている。
また、年間の参加者は600人~1,000人。3日に1回の割合でツアーを開催しているが、今後は人員を増やして多くのツアーに取り組めるようにしたい。
さらに、ウェブサイトの英語表記化や外国人向けツアーなどインバウンドに向けた取り組みも進めていきたいが、スタッフの確保が課題となっている。
ところで富山県内には、当社のような着地型ツアー会社やエコツアー会社はまだまだ少ない。だが、富山県では「とやま観光未来創造塾」を開講していて、ここで学んで育っている人材が数多くいる。ガイドはもちろんのこと、ツアー企画やゲストハウスの運営などの観光分野の起業家を輩出している。こうした県内の新しい人たちと連携して、富山県内全体でさまざまなプログラムや商品ができれば、富山という小さな県の観光振興も進むのではないかと思う。
現在、富山県では立山黒部のアルペンルートや山岳観光地の保全と利用を考えながら、世界的なリゾートエリアにしたいという計画がある。私も会議メンバーに入っているが、ただ開発するだけではなく、保全も考えてどのようにしたら自然を生かしつつ、世界から多くの人が訪れる観光地になるのかという検討が進められている。
立山というエリアでも、ガイドツアーを有料で行っているのは当社のみ。まだまだ団体ツアー以外の楽しみ方がなされていない。
また当社では、「ホテル立山」と連携し、宿泊とセットにしたガイドツアーを行っている。ツアーは2人から催行し、散策しながら2時間かけて案内するというとてもゼイタクなツアーになっている。
できれば毎日こうしたツアーにお客様がいらっしゃるようになるまで、育てていきたいと思っている。着地型の小さな会社を、県外や海外に知ってもらうにはどうしたらいいのかと、悩ましいことも多い。
会社を育て、エコツーリズムを一つの産業として成立させていくことは、大切なことだという信念を大切にし、会社を成長させることが、地域にも自然にも優しいサステナブルな活動になってほしいと願っている。
ホテルと連携したツアーでは立山開山伝説が残る「玉殿の岩屋」や日本最古の木造山小屋として現在も残されている「室堂小屋」などを巡るコースなどがある
リンク:エコロの森
■著者プロフィール
1961年 北海道札幌市生まれ。
北海道大学卒業後、読売新聞社東京本社入社。東京本社経済部などで記者として勤務。育児休業後、広告局企画開発部でキャリア関連の取材業務。
2006年、同社を早期退職し、富山市に家族6人で移住。とやま起業未来塾を経て2008年2月、富山の魅力を発信する着地型エコツアー会社「株式会社エコロの森」(富山県知事登録旅行業3-266)を創業。富山の魅力を地域の人と共に伝える着地型エコツアーを県内各地で行っている。自治体からの委託事業やガイド養成等にもつとめる。
一般社団法人富山県旅行業協会理事、NPO法人グリーンツーリズムとやま理事、NPO法人利賀飛翔の会副理事長。北陸電気工事株式会社監査役
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