茶の生産地におけるティーツーリズム
中国茶文化の中心地である杭州市の茶文化村
世界に広がるティーツーリズム
今世界では、茶や茶文化を観光の対象とするティーツーリズムが広がっている。茶は、水の次に最も消費量の多い飲料であり、世界中で飲用されている。一般的に茶とは、植物の葉、茎、花、実、根などを乾燥、あるいは煎じて、湯で浸出して飲むものを総称しているが、ティーツーリズムでは、緑茶(抹茶を含む)・紅茶・烏龍茶に代表される茶に限定している。それらの茶は製造方法が異なるが、すべてツバキ科ツバキ属の「カメリア・シネンシス」という茶の樹の生葉を原料としているという共通点がある。世界中の多くの国や地域で飲用されている茶は、いかにして観光の対象になってきたのだろうか。
ティーツーリズムのはじまり
茶や茶文化を観光の対象とする観光形態を「ティーツーリズム」と呼ぶようになったのは、1990年代にスリランカでエコツーリズムを推進していたウッドランドネットワークという民間女性グループが最初である。ティーツーリズムは、スリランカの茶プランテーションにおいて、安い賃金で働く労働者の貧困を解決する手段として始まっている。ウッドランドネットワークは、高地にある有機栽培茶のみを栽培する茶プランテーションに、庭園、菜園、ビジターセンター、観光客のためのコテージやレストランなどを整備した。また、地域住民らは観光客のために伝統芸やアーユルベーダ、そしてスリランカ料理を提供するなど、地域における観光の仕組みを構築している。これらの施設では、茶プランテーションで働くタミル族の労働者たちが雇用されている。さらに、ここでの利益はティーツーリズムの運営のために活用され、また当初の目的であった低賃金で働く労働者にも還元され、貧困問題の解決につながっている。
ティーツーリズムという言葉が生まれる前に、茶や茶文化を対象とした観光を展開していた地域として、台湾の木柵地区がある。木柵地区は、今から300年前に台湾で最初に茶が植えられた地であり、200年ほど前には中国を代表する烏龍茶の一つである「鉄観音」が持ち込まれた地でもあった。この地区はかつて中国南部から移民してきた茶農家が茶館などを運営し、賑わっていたが、やがてその茶館は衰退した。そして、台湾政府は台湾茶発祥の地であるこの地区の茶園風景を台湾の代表的な観光地にするため、1960年以降に観光プロモーションを強化した。1970年代には、茶葉の品質、茶器、使用する水などあらゆる部分にこだわった茶芸館と呼ばれる茶館が現れ、新たな顧客層を開拓している。そして、現在の台湾の茶館は、中国の伝統的な茶館とイギリスのティーハウスが融合し、観光客だけでなく、地元の人たちをも惹きつけ、ティーツーリズムは台湾を代表する観光資源となっている。
台北を代表する茶芸館「回留」
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