茶の生産地におけるティーツーリズム

吉見淳代日本茶インストラクター

2017.01.23

茶の生産地におけるティーツーリズム
日本(奈良)を訪れた外国人の茶摘風景

日本におけるティーツーリズムの可能性

 日本においても、日本茶の発祥の地である京都府、茶の生産量日本一の静岡県などを中心に、茶や茶文化を対象とする観光は広がっている。一方で、この他にも日本には数多くの茶の生産地が点在しているが、それらの地域においてもティーツーリズムが広がる可能性はあるのだろうか。また、新たにティーツーリズムを構築するためには何が必要とされるのだろうか。

 スリランカや台湾で始まったティーツーリズムがそれぞれの地域の抱える課題を解決する手段として始まっているように、茶の生産地になぜ観光を取り入れる必要性があるのか、その目的は明確でなければならない。ティーツーリズムを取り入れる主な目的としては、例えば、地域ブランディング、雇用機会の増大、六次産業化、茶の普及促進、茶文化の継承などが考えられるが、目的によってティーツーリズムの施策や戦略は異なる。これらの目的を達成するための手段がティーツーリズムなのか、それが最善策なのかは十分に議論されなければならないだろう。

 また、茶の生産地におけるティーツーリズムは、その生産地にしかない特徴のある茶の存在が欠かせない。全国至る所に茶の生産地が存在する日本において、それぞれの茶の生産地が観光で競合することを避けるためには、地域ごとに特有的な茶が存在していることが望ましい。低コスト化や均質化による茶業振興の施策が続く日本において、今後地域としてどんな茶を生産していくのか、これは茶の生産者側の課題として残されている。また発想を転換して、台湾のタピオカミルクティーのような新たなスタイルの創造によって、茶を観光に生かすという方向性もあるだろう。従来の茶を売るという視点から、観光を通じて茶を売るという視点に立つことで、地域における茶のあり方や価値も新たに見出されるのではないだろうか。

 茶道は、日本文化の象徴として、既に日本中で観光の対象となっているが、茶道で使用する抹茶を生産する地域は全国でもごく一部である。そのため、茶道を観光の対象にすることが、茶の生産地の活性化につながっているとは言い難い。一方で、急須で淹れる煎茶のような茶は全国のほとんどの地域で生産されており、煎茶文化と生産地との接続性は強い。日本人にとっての煎茶は日常的な飲料であり、それが観光の対象になる特別なものとしての認識は低い。しかし、ティーバッグやペットボトルで気軽に茶が飲めるようになった今、日本国内において急須で茶を淹れる茶文化の継承は危惧されており、観光をきっかけに、改めて自国の茶文化を見直すきっかけになるのではないだろうか。

 世界のティーツーリズムの特徴から見ると、日本の茶の生産地には既に観光の対象となる資源のほとんどが存在していることがわかる。それらの資源を観光で生かすためには、これまでと少し視点を変えて茶と捉えることで、ティーツーリズムの可能性が開かれるのではないだろうか。

著者プロフィール

吉見淳代

吉見淳代日本茶インストラクター

米国・ジョージア州立大学公共政策学部卒業。大阪府立大学大学院経済学部観光・地域創造専攻修了。
2010年、日本茶アドバイザー養成スクールお茶の郷校にて日本茶アドバイザーを取得後、2011年日本茶インストラクターを取得し、現在に至る。

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