震災後にみる長期滞在型観光の新たな局面
震災後、ターゲットはファミリー層に
東日本大震災は、私たちの暮らしや観光ニーズに変化の局面をもたらした。なかでも代表的なものが、国内の長期滞在型観光へのニーズの高まりだ。節電のつらい夏を少しでも快適に、そして安全に過ごそうと、比較的長期の連泊形態が顕在化しはじめた。
2007年、団塊世代の大量定年にともない脚光を浴びたロングステイ。もとは2週間以上の海外滞在型余暇を定義した造語である。自由時間に恵まれ、経済的に余裕があるアクティブシニアを対象に、当時はさまざまな関連ビジネスも誕生した。
しかし、老後の将来不安と雇用延長が時機を阻み、リーマンショックを機にロングステイブームは翳りをみせた。
では、震災後の動きをみてみよう。4~9泊程度の国内ロングバケーション(ロングバカンス)が旅行会社各社から相次いで商品化され、1カ所滞在型の観光に再び光が当たりはじめた。しかもユーザーは、これまで対象としてきたシニア層ではなく、30・40代のファミリー層が中心だ。
いつもより長い夏休み、避暑を目的に信州や北海道へ向かう人、はたまた放射能を避けるかのように子を連れて、東海以西や南国沖縄へ向かうファミリーもみられる。
長期滞在型観光はマスマーケットではないものの、新しい旅のカタチとして確かに根付きはじめている。
人とのふれあいが重要なファクター
そこで急がれるのが、着地型観光商品の充実だ。時間にゆとりがある滞在者でなければ味わえない、魅力ある体験型が求められる。
国内における体験型観光で手本にしたいのが、京都だろう。もとは欧米人をはじめとした訪日外国人客を対象に編み出されたものが、日本人リピーターを数多く集客するに至る。とりわけ地元の人とコミュニケーションが図れるコースが人気だ。その土地の家庭料理や伝統芸能など、方言もそのままに温かく手ほどきしてくれるようなつくりがよい。
こうした傾向をみるにつけ、来年もまた来ようとおもわせる重要なファクターに、“人”があることを知らされる。
1,000年に一度といわれる大震災は、人と人とのふれあいがどれほど意味のあることか、価値あることかを教えてくれた。これまでシニア一辺倒だったロングステイビジネス、インバウンド一辺倒だった観光ビジネスのそれぞれが、曲がり角にきている。それは働きざかりの世代や、これからの日本を背負って立つ子どもたちへと目が向けられる瞬間でもある。
日本経済の復興に、観光の内需拡大を急ぐときにある。
リンク:千葉千枝子公式HP
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