“してはいけないこと”を見極める目を養うことの大切さ
これまで観光地づくりにおいては、何かを造れば誘客できるという考えのもと、後世に禍根を遺すような行為が多くなされてきました。今回は反省を含めて、対照的な小樽市と旧・西祖谷山村を例に、「してはいけないこと」を考えてみたいと思います。
運河全面埋め立ての危機があった小樽市
小樽市は、「運河都市」として毎年多くの観光客を集めていますが、かつて1980年代にこの運河が存亡の危機を迎えていたということは、30年近くの年月とともに次第に忘れ去られつつあるようです。
1980年代初めの小樽運河は、運河というよりもどぶ川といった状態で、蚊やハエの発生や悪臭のため、邪魔ものと化していました。そんな折、運河沿いの道路の交通量が年々増加し、朝夕の渋滞が問題となっていたため、運河を埋め立てて道路にする計画がもちあがりました。
この計画に対しては、推進派と反対派が市を二分するような大論争を繰り広げましたが、最終的には運河の半分を埋め立てて道路を拡幅し、残りの半分を現在のような遊歩道が整備された運河として残す折衷案がとられました。もしもこの時運河全面が埋め立てられていたら、観光的価値は失われ、現在の「観光都市・小樽」はなかったと思われます。小樽市は、辛うじて「してはいけないことをしなかった」と言えましょう。
秘境に巨大な駐車場を建設した西祖谷山村
これに対して旧・西祖谷山村(現在の三好市)は、国指定重要有形民俗文化財に指定されている「祖谷のかずら橋」で有名です。この「祖谷のかずら橋」は、山深い峡谷にかけられた葛で造られた橋で、これによって“秘境”のイメージを売りにし、誘客を図ってきました。
しかし、2006年に「かずら橋夢舞台」という販売所併設の大駐車場が造られたため、秘境が秘境でなくなってしまいました。秘境ならではの道路事情の悪さから大型バスの運行が難しい状態にあったため、大型バスによる団体客の誘客増加を図るために巨大な駐車場が建設されたのです。
結果、秘境のイメージが失われたため、ツアー対象から外した旅行社もあったとのことです。いうなれば「してはいけないことをしてしまった」と言うことだと思います。
「後悔先に立たず」ということを考えると、「してはいけないことを見極める目、判断力を養うこと」が、いかに大切かと言うことが出来ましょう。
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