産業観光のビジネスモデルの構築に向けて

宍戸学横浜商科大学商学部貿易・観光学科准教授、川崎産業観光振興協議会

2012.07.16神奈川県

 全国有数の工業都市である川崎市は、「第2回産業観光まちづくり大賞・銀賞」「第2回かながわ観光大賞・魅力ある観光地づくり部門」を受賞するなど、産業観光の先進地である。

 しかし、産業観光施設の多くは無料で、事前予約制や平日限定利用、アクセスの悪さなど、観光客受け入れに課題は多く、地域経済の活性化のために産業観光のビジネスモデル構築が鍵となっている。

 川崎産業観光振興協議会は、2008年度にモニターツアーを8回実施し、現在は旅行会社主催で「川崎産業観光ツアー」を定期実施しているが、シルバー・ファミリーを主なターゲットとする産業観光ツアーの集客拡大は難しい面もある。

 そこで、独自の景観「工場夜景」を活用した「川崎工場夜景バスツアー」「川崎工場夜景屋形船クルーズ」を導入した。これらの取り組みは、マスコミに大きく取り上げられ、はとバスによる定期ツアーへとつながり、震災後の一時中止およびその影響を除けば、毎回ほぼ完売となっている。

 また産業観光では、学びを深化させ、楽しむ雰囲気を作り出すガイドの存在が重要である。
 そこで、2007年より「川崎産業観光検定試験(初級・上級)」を実施し、「検定合格者の集い」「川崎産業観光ガイド養成講座」「工場夜景ナビゲーター養成講座」を実施し、誕生したガイドはツアー参加者から高い評価を受けている。「川崎の産業観光を支援する会」などの検定合格者による支援活動も活発となってきた。

 現在は室蘭・四日市・北九州市と連携し「四大工場夜景サミット」を開催し、2012年7月には「工場夜景・美の祭典 フォトコンテスト」を実施する。さらに産業観光学生プロモーターを任命し、若者誘致と「工場夜景カレー」や新たな土産品開発にも着手する。

 工場夜景という新規性かつ独自性ある商品を除き、既存施設を結ぶ昼の産業観光ツアーの集客力はまだ弱い。それでも、地域と連携しツアー独自の施設入場など付加価値が高いハンドメイド型ツアーであれば、着実に集客に成功している。

 教育旅行誘致にも積極的に取り組む。旅行会社が主催・販売する形をとっても、実際の資源の掘り起こしや企画・調整は、行政等がかかわる場合が多く、産業観光ビジネスを理解し、推進できるノウハウを持つ人材は少なく、完全な民間主導の実現は容易ではない。しかし、産業観光のビジネスモデル構築につながる商品づくりを牽引する協議会を核とした取り組みに、少しずつ民間企業や住民が巻き込まれている。

 このように、産業観光においては、資源を単に結ぶツアー造成でなく、工場夜景のような独自素材を含む商品づくりと斬新な切り口で付加価値を提供するための官民連携のビジネスモデルの構築と継続化が不可欠である。

リンク:スタディ・ツーリズムの勧め ー 川崎市の産業観光の魅力

著者プロフィール

宍戸学

宍戸学横浜商科大学商学部貿易・観光学科准教授、川崎産業観光振興協議会

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