歴史の町におけるゆるやかな文化の協創

片山明久成美大学経営情報学部准教授

2013.01.01富山県

旅行者を経済面だけで捉えていないか

 観光が地域振興の文脈でとらえられるようになってから、すでに久しい感がある。全国ではさまざまな着地型観光が取り組まれており、観光庁のホームページにおいても多くの事例を見ることができる。

 地域の特性を活かした魅力的な着地型商品を作り、熱心に広報を行う。そのような観光振興の取り組みは確かに重要である。

 しかしともするとこの文脈は、旅行者を単なる経済的な取引相手に性格づけてしまいがちである。今日の観光においても旅行者とは、主に経済的な面から性格づけられるものなのだろうか。

 ここで、富山県南砺市の城端(じょうはな)という町を取り上げてみたい。

 城端は世界遺産五箇山への入口に位置する人口約9,400人の小さな町である。「越中の小京都」と呼ばれ古い町並みが残るこの町は、曳山祭など独自の文化を育んできた。

 2008年、そんな歴史の町がアニメの舞台になった。アニメの題名は「true tears」。放映開始からほどなくして人気が高まり、ファンたちの城端への訪問が急増した。

 制作した(株)ピーエーワークスが本社を城端に構える会社であったこともあり、放映後はキャラクターを図案としたグッズなどが何度も販売され、ファンたちの訪問に拍車をかけた。城端は聖地となったのである。

アニメファンが地域の伝統文化も応援

 しかし城端は、単にアニメのファンたちでにぎやかになっただけではなかった。

 まずファンの一部が、現地への訪問を繰り返すうちに地域の伝統文化に強い興味を示すようになり、祭や踊りなど地域文化の応援活動を行うようになったのである。

 次に制作会社も、祭りの曳き手への社員の派遣、作品のキャラクターを祭ポスターの図案にするなど地域文化への支援を以前にも増して行うようになった。

 そして2011年、行政がまちづくりの公募事業に対してファンの有志から出されていた申請(地域文化の応援を目的とする内容であった)を、有益と判断し採択したのである。それはファンを文化活動のパートナーとして、地域が認めた証でもあった。

 このように城端では、ファン、制作者、地域の3者がおのおの地域文化に対して敬愛を持ち、それを育むために相互協力しようとしている。3者のゆるやかな文化の協創をそこに見ることができる。

 この“ゆるやかな”という関係が、いかにも歴史のまちに似合っている。“ゆるやか”であるからこそ、ファンたちや制作者は自分たちのペースで、無理なく地域文化への応援活動を続けることができるのだ。

 観光振興のための取り組みはもちろん重要である。しかし地域が旅行者の消費活動の喚起に偏った広報を強めるばかりでは、旅行者の地域への多様な参画意欲を却って減退させることにもなってしまう。

 旅行者の地域への参画が旅行者自らの意思によって実現した時、地域文化は育まれ、地域の魅力が輝きだす機会を得る。城端の事例は、これからの観光のひとつのあるべき方向性を示してくれているように思うのである。

著者プロフィール

片山明久

片山明久成美大学経営情報学部准教授

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