地域振興と文化遺産の保存との両立 岐阜県白川村の事例を通じて

麻生美希北海道大学観光学高等研究センター特任助教

2013.10.16岐阜県

文化遺産の価値とは

 「開発」か「保存」かという問いは、数多の地域で議論されてきたテーマと言えよう。

 岐阜県白川村にある白川郷の合掌造り集落も、地域振興の手段である「観光」と世界遺産としての真正な「保存」との間で悩んできた。しかし現在の白川村にとって、「観光」か「保存」かという二項対立的な考え方は現実的ではなく、生活を支える産業の面においても、保存のための財源確保の面においても、観光はなくてはならないものとなっている。

 白川村の嘱託職員として「白川村世界遺産マスタープラン」などの計画策定に携わってきた経験の中から、地域振興と文化遺産の保存との両立を実現する上で感じたことを提言したい。

 第一に、文化遺産の保存すべき価値とは何なのか、つまり変わることなく継承していきたい部分を明らかにすることが肝要である。
 白川村の場合、合掌造り家屋に関しては専門調査も行われ、村内においてその重要性が共有されている。一方で、世界遺産の資産である居住域全体、バッファゾーンも含む集落景観としての価値は明確ではなかった。

 その中で、観光業が主産業となり生活スタイルが近代化し、集落内の宅地造成や建築行為の増加による建て詰まり現象や農地の粗放化が問題となった。それを防ぐためには、皆が合掌造り家屋の価値を共有しているように、集落空間に関しても価値を共有し、その価値を阻害しない施策を講じることが求められる。

 それは、文化財保護の助成メニューにはない施策となるかもしれないが、独自で展開していく必要がある。

地域振興との両立を考える

 第二に、「地域」や「振興」とは何を指すのかを明らかにすることが必要である。白川村では、世界遺産への観光客の一極集中による集落間の経済や意識の格差という問題を抱えている。

 つまり、振興したい「地域」とは、白川村全体であるべきで、そのためには世界遺産集落外に暮らす住民も観光に参画できる機会や関連産業を創出するなど、観光客の受け入れ体制を主体的にデザインすることが求められる。

 また、「振興」とは観光業の振興だけを意味するものではない。生活環境の安全が確保され安心して暮らすことができ、住民同士の強いつながりや自然環境の豊かさなどの地域の魅力を感じながら生活できることを基盤としなければならない。
 そのためには交通規制など、観光を適切にコントロールできる仕組みが必要となる。

 地域振興とは、文化遺産の保存とは、何を目指し達成すべきものなのか。まずは自地域において掘り下げて考えること無しに、地域振興と文化遺産の保存との両立は成し得ないと考える。

著者プロフィール

麻生美希

麻生美希北海道大学観光学高等研究センター特任助教

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