石見の歴史や文化に触れ、地域の人と交流する体験プログラム「いわみん」を開催 地域おこしに取り組むイワミノチカラ代表伊藤康丈さんに聞く

伊藤康丈イワミノチカラ代表

2018.04.19島根県

「萩・石見空港見学ツアー」

萩・石見空港見学ツアー
到着した飛行機を間近で体感できる人気のツアー

 いわみんが2017年に提供した82のプログラムから、「親子でいわみを遊ぶ」をテーマにした「萩・石見空港見学ツアー」について紹介する。萩・石見空港は島根県益田市にあり、出雲空港、隠岐空港に続く空港として1993年に開港した。利用圏は県西部と山口県北部で、運航は全てANAグループが担っている。ツアーでは、飛行機の運航を陰で支えているスタッフから話を聞いたり、普段入れない裏側をのぞいたり、飛行機や特殊車両を間近で見学することができる。

[ツアー概要]
開催日時:2017年11月12日(日)と11月23日(木)11:00~13:30
場  所:萩・石見空港(島根県益田市)※空港内1階会議室に集合
対象年齢:6~12歳で保護者同伴が条件
参 加 料 :1名につき500円

 今回は11月23日(木)の内容をレポートする。この日は近隣の浜田市や江津市などから、31名の親子が参加した。「空港を何度か利用しているので興味を惹かれた」「空港の仕事を子どもに知ってもらう機会にしたい」「この体験が子どもにとって何かのきっかけになれば」など、さまざまな目的で参加していた。

空港ではどんな人が働いているのか

 まずは、益田県土木整備事務所石見空港管理所の花本清敏さんから、空港の施設や業務について15分ほど説明があった。空港で飛行機が離発着するために、航空会社以外にも、給油会社、貨物会社、ターミナルビル会社、航空局、気象台、空港管理事務所など、たくさんの会社や施設、機関がかかわっている。

 花本さんが所属する空港管理所では、滑走路の異物や異常を点検したり、専用の花火で鳥を追い払ったり、進入灯などの照明切れを確認したり、立ち入り制限区域への侵入者を防いだり、365日体制で対応している。

 多くの関係機関がそれぞれの職務を果たすことで、安全な運航が守られていることを参加者は学んでいた。

萩・石見空港見学ツアー
花本清敏さん

飛行機に乗るまでを体験

 次に、搭乗までの流れを体験するため、グランドスタッフの秋好梨会さんと一緒に搭乗カウンター、保安検査場、搭乗ゲート、手荷物受取所などを巡った。

 近年ANAでは、搭乗手続きなどにかかる時間を短縮し、乗客の利便性を高めようと、搭乗券の予約、購入、座席指定を事前に済ませるスキップサービスを推奨している。このため、空港に到着してからはカウンターを通らず、自動チェックイン機やそのまま保安検査場に向かう乗客が増えていることを秋好さんは説明してくれた。

 手荷物検査場を見学しながら、裏に運ばれた手荷物は強度や重さなどを配慮しながらスタッフがコンテナに搭載していることも教えてくれた。

萩・石見空港見学ツアー
秋好梨会さんがチェックインについて説明

 そして2階の保安検査場に移動し、セキュリティチェックの仕方を教わった。一人ずつ金属探知機のゲートを通り、ブザーが鳴ると「携帯電話かも」「カギかな」といった声が参加者から聞こえてきた。

 検査場を出ると搭乗ゲートとパッセンジャーボーディングブリッジ(以下PBB)を通って搭乗口に着いたところでいったん終了。

萩・石見空港見学ツアー
保安検査場

 搭乗券のリーダー機や手荷物受取所のベルトコンベヤーに地元の伝統芸能「石見神楽」のオロチをあしらってご当地らしさを表現していた。

萩・石見空港見学ツアー萩・石見空港見学ツアー
左)リーダー機、右)手荷物受取所のオロチ

カッコイイ特殊車両の紹介

 他にもツアーでは、空港で活躍する特殊車両を紹介していた。ここでは飛行機の周りで見かける車両の一部を紹介していこう。

 自力でバックすることができない飛行機を滑走路まで押し出してくれるトーイングトラクター、手荷物、貨物、郵便物などが入ったコンテナを地上から飛行機の貨物室まで昇降機で搬入、搬出するハイリフトローダー、ベルトコンベヤーを備え、後方の貨物室にばら積みの荷物を搬入、搬出するベルトローダー、飛行機のエアコン、照明、メインエンジンの始動用の電力を供給する電源車など、離着陸のたびにたくさんの車両を見ることができる。限られた時間内に安全で素早く荷物を搬入、搬出するためにスタッフ同士の連携と高い運転技術が要求されることを参加者は学んだ。

整備士の仕事とは

 この日は飛行機の到着が遅れたため、急遽、整備士の小森憲二さんによる業務紹介と飛行機の基礎知識を学ぶクイズコーナーを行った。飛行機の部品は非常に複雑な仕組みであるため、4つの部門に分けて整備を行っている。飛行機の出発前に修理と点検を行う「ライン整備」、翼の内部など普段点検しない部品を点検する「ドッグ整備」、機体から外したエンジンを専門の工場へ運び、分解して修理する「エンジン整備」、レーダー、無線機器、慣性航法装置など飛行機に搭載するコンピュータの検査修理を行う「装備品整備」である。ちなみに小森さんはライン整備を担当している。

萩・石見空港見学ツアー
小森憲二さん

 続いて飛行機の基礎知識を学ぶクイズコーナーでは、飛行機はどんな素材でつくられているのか、燃料タンクは一度に何リットル入るのかといった質問をし、答えは図を使って分かりやすく説明してくれた。また、なぜ飛行機が飛ぶのかを理解してもらおうと、紙を使って「揚力」の実験を行った。紙の両端を親指と人差し指で挟み、口のすぐ下まで近づけてから息を強く吹きかけると紙が浮かび上がる。前から風が当たると、紙の上側に沿って流れる空気は下側よりも速くなり、圧力は小さくなる。一方、空気の流れが遅い下側では圧力は大きくなる。この圧力差で、紙は重力に逆らい圧力の小さい上の方へ押し上げられる。これが飛行機を浮かび上がらせる揚力になるという解説をしてくれた。

萩・石見空港見学ツアー
揚力の実験では紙を浮かび上がらせようと一生懸命息を吹く姿がみられた

飛行機を間近で体感

 いよいよ飛行機が到着する時間になり、立ち入り制限区域へ移動した。東と西、どちらのコースから着陸するかを予想しながら待った。

 このときは東から飛行機が飛んできた。轟音とともに無事着陸すると、空港が目まぐるしい展開となった。駐機場に向けて自走する飛行機の正面で、大きなしゃもじの形をしたパドルを持ったマーシャラーが、停止位置まで誘導する。所定の位置に停止するとPBBを設置し、乗客を降ろす。電源の接続や貨物の搬出、給油などが行われ、乗客全員が降りるのと同時に、7人の清掃員が機内に入り、10分で完璧に掃除する。パイロットはグランドスタッフと情報交換を行って、すべてのスタッフがキビキビ職務を果たしていた。
 一方参加者はパイロットに手を振ったり、飛行機をバックに写真撮影をしたり、目をキラキラさせながらその様子を楽しんでいた。
 飛行機を見学した後は、化学消防車の試乗体験と放水のデモンストレーションも行われ、記念品のカレンダーをもらってすべての行程が終了した。

萩・石見空港見学ツアー

萩・石見空港見学ツアー
6,000リットルの水がタンクに入っている消防車。1分間に4,500リットル放水するため約1分20秒でタンクが空になるという

 参加者からは「音の迫力がすごかった」「あんなに近くで飛行機が見れてよかった」「整備士さんって大変なんだな」といった感想が寄せられた。
 普段できない体験に子どもだけでなく付き添いの保護者も積極的に楽しんでいたのが印象的だった。ツアー終了後も、すぐに帰らず再び空港内を歩き回っていた参加者もいた。
 いわみんの伊藤康丈さんは「萩・石見空港は小さな空港なので、人との交流が感じられる温かみのある空港だと思っています。ツアーを通してその魅力が伝わると嬉しいですね」と話す。
 いわみんでは初めて取り組んだツアーだったが、2回とも定員を上回る参加者が集まったという。その人気のツアーは来年もぜひ続けてほしいと願う。

石見の歴史や文化に触れ、地域の人と交流する体験プログラム「いわみん」を開催 地域おこしに取り組むイワミノチカラ代表伊藤康丈さんに聞く
ツアーの終わりには集合写真をカレンダーにして渡してくれた

(インタビュー/文 塩田恵理子)

リンク:いわみん 

 

取材対象者プロフィール

伊藤康丈

伊藤康丈イワミノチカラ代表

1971年島根県江津市生まれ。立命館大学経営学部卒業後、大手ゲーム会社に就職し、15年間、アミューズメント施設運営、キャラクタービジネスに携わる。2012年に開催された島根県ビジネスプランコンテスト受賞をきっかけに、同年4月、東京よりふるさとである島根県江津市にUターン。地域おこしを目的とした任意団体「イワミノチカラ」を設立し、2013年5月、第一回目となる石見版オンパク「いわみん」を開催する。一般社団法人ジャパン・オンパク理事、萩・石見空港利用拡大促進協議会観光コーディネーターなども務める。

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