観光と語り部 遠野市を事例に
観光客が語り部に触れるには
遠野には1年を通してさまざまな祭りや行事が催される。例えば、2月末から3月初めに開催される「遠野町家ひなまつり」では「歴史」の認定者(子どもも含む)から遠野の歴史、風習、日本の雛人形の歴史や「我が家」の雛人形の歴史について話を聞くことができる。観光客はこうした催し物に合わせ遠野を訪れるとよい。また、「ひといちおかみさんの会」の所属メンバーから手隙の時間に「池端の石臼」の話を語ってもらえる。店の前の木札が目印となる。
ひといちおかみさんの会の「池端の石臼」木札
「語り部1000人プロジェクト」認定証
なお、認定証は地元木材でできており首から吊るすものではない。そのため相手が認定者か否かは聞いてみないと分からない。遠野文化研究センターは問い合わせには応じてくれるが、サイトなどを活用して認定者を紹介する予定はないという。さらに、認定されてもそれを活かす場がない認定者も中にはいる。
筆者は2008年と09年に遠野を訪れ、「昔話語り部館」ではベテラン語り部たちの昔話を、物産センター内では遠野駅到着直後や電車の出発時刻直前まで「いろり火の会」のメンバーの昔話を堪能することができた。もはやこういった場所で昔話を聞けなくなったことを残念に思う。遠野物語研究所も解散し、時代の流れを感じる。「語り部教室」から生まれた「いろり火の会」は、遠野の昔話を伝承する次世代の語り部として成長していった。今後は「遠野昔話語り部の会」が若い世代に継承されていくことが肝要である。「語り部1000人プロジェクト」については観光客が認定者として認識しやすい工夫が期待される。
次世代の語り部を育てることが肝要
謝辞:本稿をまとめるにあたり、遠野文化研究センター調査研究課長の小笠原晋さん、同センター調査研究課主査の前川さおりさん、「遠野昔話語り部の会」の皆さん、「マヨイガの郷」の八木美嬉さん、井手礼子さん、「にぎやかギャラリー」の海老糸子さん、小笠原昭子さん、上野こう子さん、そして、まつだ松林堂の松田和子さん(遠野商工会女性部長)から貴重な情報を戴きました。心より感謝申し上げます。
【参考文献】
石井正己(2009)『遠野物語と21世紀 近代日本への挑戦』三弥生書店
井上裕子(2009)「遠野の語り部とスコットランドのストーリーテラー 類似点と相違点」『日本観光研究学会第24回全国大会論文集』 pp.69-72 日本観光研究学会
櫻井美紀(2006)「日本の語りとストーリーテリングの活動」http://www5b.biglobe.ne.jp/~miki-s/index.html
佐藤誠輔(2005)「語り部教室(昔話教室)の歩み」『遠野物語研究 第8号』pp.86-100 遠野物語研究所
遠野市(2011)『遠野の観光振興について~百年の縁を100年続く絆に~』http://www.soumu.go.jp/main_content/000100992.pdf
■著者プロフィール
ミシガン州立大学大学院英語教授法(TESOL)修士課程修了後、アリス外語学院非常勤講師、北陸大学外国語学部専任講師、北陸大学教育能力開発センター専任講師を経て、2013年(平成25年)より現職。JICAおよびJICE非常勤研修監理員、北陸大学英語読み聞かせサークル代表、大学英語教育学会会員、日本観光研究学会会員、NPO法人語り手たちの会会員。
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