ネオ・ルーラリズム時代

佐藤誠熊本大学名誉教授

2012.06.01

 成熟社会の到来で、ツーリズムの形態は大きく変容した。作り物の観光施設やマスツーリズムではない、大地に根差した暮らしや伝承文化への回帰現象として、小さな村へ足しげく通い、セカンドホームを持ち、移住を行うという、従来型の観光では収まらない旅と滞在がツーリズムの本流になりつつある。

 ツーリズム大国のフランスでは、1982年に過疎化し消滅の危機にひんした小さな村が「フランスで最も美しい村連合」を結成し、愛郷心に訴えてのツーリズム開発に成功している。今では、人口が2千人以下の154の村々では都市からの移住希望者があまりに多くて、村の不動産物件高騰が社会問題化するほどに人気が高い。例えば、プロバンス地方の水郷ソルグでは500のアンティーク店が立地し、週末には数万人が押し寄せてくるが、伝承ある暮らしへのニーズの高さを示している。

 村人が自らの生活地域にある有形・無形の資源に着目し、歴史的建造物や伝承を引き継ぐ景観などを都市住民に「最も美しい村」だとアピールする村連合の運動は、イタリアやベルギー、カナダやオーストリアなどに伝播し、2003年にはその国際連合が立ち上がり、2007年には「日本で最も美しい村連合」が発足した。

 こうした傾向は1990年代には欧米諸国では一般的であり、アメリカでは10年間で260万人が都市から自然豊かな田舎へ移住し、とりわけカナダの南・ロッキー山脈の西にあるマウンテンウエスト8州に集中している。フランスのプロバンス、イギリスのコッツヲルド、イタリアのトスカーナ、スウェーデンのスコーネなどの地方がとりわけ好まれるのは、パノラミックなランドスケープという共通点がある。ワイン畑や牧草地がどこまでも広がる暮らしの景観が好ましい。

 「伝承なき生活、それは人生の廃墟である」とバラニャックは言う。高速の情報・交通網でアクセスできれば、小さな村での暮らしは快適なのだ。

 グリーンライフ実現を目指す人々は各人各様のなりわい興しに挑戦している。所得は、移住希望者へ対するツーリズム産業、リアルエステートのビジネス、健康や美容へのサービス産業などなど、多種多様ななりわい創造で得られる。アメニティ・ムーバーはライフウエア産業(製品製造のハードウエア産業、マネーインダストリーのソフトウエア産業の次に来る、暮らしと命を輝かす産業)の創造者=ライフスタイル・アントレプレナーでもある。

著者プロフィール

佐藤誠

佐藤誠熊本大学名誉教授

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