スマホゲーム「Ingress」に注目した岩手県 ゲームと地域資源のコラボで誘客を仕掛ける
全国初を意識しスピードを重視
―なぜ、研究会を立ち上げたのですか?
保:昨年8月下旬、面白いゲームがあるのでやってみない? とゲームクリエイターの吉岡直人氏からIngressを紹介されました。ゲームを始め、遊び方を知ると、観光地めぐりに似ていることから、新しい集客ツールとして活用できるかもしれないとひらめいたのです。
この時は、どの自治体もIngressを活用した事例は見当たらなかったので、岩手県が初めてとなることを目指しました。1番というのがニュースバリューとして重要です。行政の仕事では往々にして予算や担当する組織などを議論して決めますが、そこに時間をかけたくなかったので、まずは自ら動いてみようと、職員有志の「研究会」を結成することにしました。
最初は分からないことが多かったので、吉岡直人氏を盛岡に招いて、ゲームの基礎を学ぶ勉強会を実施しました。これで、当初のひらめきが確信へと変わりました。
その後、一緒に取り組むメンバーを公募し、2014年9月25日に、13人で「岩手県庁Ingress活用研究会」を発足させました。
岩手県がIngressに取り組むニュースを1日でも早く世間に知らせたいと、研究会発足の前日にプレスリリースを出しました。期待通り「岩手県が何か面白いことをする」と、メディアから注目を集めることができました。
街歩きをしながら楽しめるフィールドづくり
―イベント「ポータル探して盛岡街歩き」はどんな発想から生まれましたか?
保:最初の話題作りには成功しましたが、県内にはポータルが圧倒的に少なく、研究会では、ゲームをするのに魅力的なフィールドではないことが課題にあげられました。まずは研究会で盛岡市内のポータルを増やそうと申請を試みましたが、人手が足りず、また承認まで数カ月を要したので、具体的な活用までに相当の時間がかかると予想していました。
それでも原点に戻りIngressについて考えると、ポータルを探すことは、自分たちの街にある歴史、文化などの魅力を発掘・再発見する作業に似ています。歴史や文化に興味や関心がある人たちや、広く一般からも参加できるイベントにすれば、効率的にポータルが申請できるのではないかと発想しました。
さらに盛岡市は街歩きが観光商品の一つとして確立していたので、従来のコースにある観光ポイントをポータルにすれば、ゲームをしない人も楽しめるかもしれない。Ingressと街歩きの融合が楽しめる新しい観光が生まれるのではないか。こうしたことを考え「ポータル探して盛岡街歩き」を企画しました。
「ポータル探して盛岡街歩き」出発式
―イベントでは3つの街歩きコースを設けていますが、どのような内容のコースですか?
保: AからCのうちAコースが街歩き観光のコースです。
このコースは、歴史的な建造物が多く下町情緒の残る盛岡の河南地区をあらかじめ決められたルートにそって歩くもので、従来の観光スポットをポータルに申請してもらうというものです。文化地層研究会のガイドが見どころを解説してくれるという企画が良かったのでしょうか、事前の申し込みですぐに定員に達しました。
BとCのコースは、広いエリアを設定し、参加者に手分けをしてたくさんのポータルを申請してもらおうというものです。なかでも宮沢賢治にちなんだモニュメントが点在し、路上買物市(よ市)が行われている材木町には訪れてもらいたかったので、Bコースの参加者には、盛岡駅を起点とする都心循環式バス「でんでんむし」を利用してもらいました。
歴史ある街並みをめぐる「ポータル探して盛岡街歩き」
―参加者はどのぐらい集まりましたか?
保:当初は20名くらい集まってくれればと想定していましたが、最終的な規模は54名になりました。県内の方がほとんどでしたが、県外からは自分のまちで取り組む参考にしたいと、地域おこしの関係者が参加してくれました。
―ポータルは増えましたか?
保:イベント前は市内に60カ所ぐらいでした。このイベントで291カ所を申請したのですが、事前の予想では、春ごろにポータルが増えていればいいなと考えていました。ところが、イベントが終わるころに、Ingressを開発したGoogle社のNiantic Labs(ナイアンティック・ラボ)の方から、自治体初の取り組みだったことなどを考慮して、申請の優先処理を適用するというお話があったのです。その結果、2週間くらいのうちに、約200の新規ポータルが生まれることとなりました。
11月25日時点での盛岡市中心部のポータルの状況(研究会提供)
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